「うー……じゃあさ、護衛ってことは安全の確保もお仕事なわけでしょ?」
こんな時ばかりはラストの頭の回転も速い。
次なる一手を繰り出す。
「ま、まあ、そうですね」
「例えば〜、食べるものの安全も確保しなきゃいけないと思わない?」
「うっ……それは…………そうですね」
「もしかしたらこれから食べるケーキに毒が入っているかもしれないから毒味って必要だと思わない?」
(……面白い顔だな)
ケーキ屋からするととんでもない物言いだけど今はツィツィナを説得するためだからしょうがない。
それにラストの言葉も間違いと言えない。
確かにそうした食べ物に至るまで安全を確保することは護衛として必要なことである。
流れがラストに傾きつつある。
ユーディカの顔が輝き出し、ラストに期待する眼差しを向ける。
コロコロと豊かに変わる表情が面白くてルフォンはユーディカの方ばかりを見ていた。
「た、確かに。毒味……は必要かもしれません、ね」
ツィツィナも甘いものが好き。
そしてこのお店のケーキは食べてみたい。
護衛であるという責任感とケーキの誘惑がツィツィナの中でぶつかる。
毒味であるなら必要だし、理由も説明できる。
そもそも誰もみてもいないのだからそんなに気にする必要もないかもしれないと思考が理由を探し始めた。
「どれが毒かも分からない以上は色々食べてみないといけないじゃない?」
「そう……ですね」
「先輩、毒味は必要だと私も思いますよ!」
グラつくツィツィナの様子を見てユーディカも援護に入る。
この場にツィツィナの味方はいない。
押せば落ちそうなところまできていた。
もうツィツィナの頭の中ではどのケーキがいいかを考え始めていた。
「ど、毒味必要ですか?」
「必要だねぇ」
「…………分かりました。危険な毒味役、このツィツィナにお任せくださいますか?」
「ごほん、ツィツィナさん、危険な役割ですがお願いします」
店の中の様子など離れて待機する他の兵士には分かるまい。
ラストとユーディカの説得にとうとうツィツィナは折れてしまったのであった。
軽い茶番を乗り越えて4人はケーキを選び出す。
あまり食べすぎてお腹いっぱいになってしまってもよくないので1人2個までの縛りでどれが良いかとキャッキャッする。
お店にはカフェのような飲食スペースもある。
選んだケーキをそこで食べることになり、計8個のケーキが置かれたテーブルを4人で囲む。
「ん! 美味しい!」
「わっ、こっちもいいよ」
「ほわぁ、これが話にあったやつかぁ」
「これも美味しいですよ!」
毒味という建前はどこにいったのか。
4人で8個のケーキをシェアして食べる。
もうただの女子会であり、ヴィッツは穏やかな微笑みを浮かべてその様子を見ている。
「ルフォンはどれが好き?」
「んーとね、私はこれかな?」
単に甘いだけよりも少し果物の甘酸っぱさが口に広がるケーキがルフォンの好みだった。
「おっとな〜。私はこの甘々なやつがいいかな」
一通り食べたら味や好みの感想を言い合うこともまた醍醐味である。
「んじゃあ、リュードにも買ったげよか」
4人でケーキを平らげた。
8個のケーキの中でも評価の高い2個のケーキをリュード用に購入してお店を出た。
1人で治療薬を作ってくれているリュードのこともちゃんと忘れていないのである。
その後も服やアクセサリーを見たり、ご飯を食べたりして4人は色々なお店を回った。
ヴィッツは一流の執事らしくそんな雰囲気を壊さないように気配を消してついていっていた。
離れていた護衛たちも距離感をうまく掴んでいつの間にかラストもその存在を忘れるほどだった。
「あー、楽しかった!」
こんな風に遊んだのは初めてだった。
それはラストにとってもだけどルフォンにとってもそうであった。
村じゃこんな風にお店巡りなんてできないし、やろうとも思ったこともなかった。
ショッピングを楽しむことがこんなに楽しいことだなんて初めての感覚だった。
「こちらは?」
色々巡って最後の場所にやってきた。
町の繁華街から外れたところにある大きな建物でこれまでのお店とは毛色が違っている。
古ぼけた看板が掲げてあって、研究所というところだけがかろうじて読める。
何のお店だろうとすっかり打ち解けたツィツィナも首を傾げた。
「ちょっと差し入れと様子を見にね」
「ご様子ですか?」
誰とか何のとか聞く前にラストが中に入る。
「うへぇ……」
ルフォンがすごく渋い顔をする。
「なんというか、独特な匂いがしますね」
これまでに嗅いだことのない臭いが建物の中から漂ってきた。
いくつかの臭いが混じっていて何の臭いだと断定することも出来ない。
葉っぱのすりつぶしたような青臭い臭いが強く感じられらる。
ツィツィナやラストでもはっきりと感じられるほどに臭い。
鼻のいいルフォンにとっては相当キツイものであった。
ユーディカも同じく鼻が効くので鼻をつまんで口で呼吸している。
「リュード、きたよー」
奥の部屋に入るとそこは薬を作る場所というよりも実験施設であった。
すりこぎのようなものや薬剤を熱する器具、ガラスの瓶やなんかもたくさんあった。
「ん? おう、来たか」
ゴーグルにガスマスク姿のリュードが手を上げて来客を歓迎する。
こんな時ばかりはラストの頭の回転も速い。
次なる一手を繰り出す。
「ま、まあ、そうですね」
「例えば〜、食べるものの安全も確保しなきゃいけないと思わない?」
「うっ……それは…………そうですね」
「もしかしたらこれから食べるケーキに毒が入っているかもしれないから毒味って必要だと思わない?」
(……面白い顔だな)
ケーキ屋からするととんでもない物言いだけど今はツィツィナを説得するためだからしょうがない。
それにラストの言葉も間違いと言えない。
確かにそうした食べ物に至るまで安全を確保することは護衛として必要なことである。
流れがラストに傾きつつある。
ユーディカの顔が輝き出し、ラストに期待する眼差しを向ける。
コロコロと豊かに変わる表情が面白くてルフォンはユーディカの方ばかりを見ていた。
「た、確かに。毒味……は必要かもしれません、ね」
ツィツィナも甘いものが好き。
そしてこのお店のケーキは食べてみたい。
護衛であるという責任感とケーキの誘惑がツィツィナの中でぶつかる。
毒味であるなら必要だし、理由も説明できる。
そもそも誰もみてもいないのだからそんなに気にする必要もないかもしれないと思考が理由を探し始めた。
「どれが毒かも分からない以上は色々食べてみないといけないじゃない?」
「そう……ですね」
「先輩、毒味は必要だと私も思いますよ!」
グラつくツィツィナの様子を見てユーディカも援護に入る。
この場にツィツィナの味方はいない。
押せば落ちそうなところまできていた。
もうツィツィナの頭の中ではどのケーキがいいかを考え始めていた。
「ど、毒味必要ですか?」
「必要だねぇ」
「…………分かりました。危険な毒味役、このツィツィナにお任せくださいますか?」
「ごほん、ツィツィナさん、危険な役割ですがお願いします」
店の中の様子など離れて待機する他の兵士には分かるまい。
ラストとユーディカの説得にとうとうツィツィナは折れてしまったのであった。
軽い茶番を乗り越えて4人はケーキを選び出す。
あまり食べすぎてお腹いっぱいになってしまってもよくないので1人2個までの縛りでどれが良いかとキャッキャッする。
お店にはカフェのような飲食スペースもある。
選んだケーキをそこで食べることになり、計8個のケーキが置かれたテーブルを4人で囲む。
「ん! 美味しい!」
「わっ、こっちもいいよ」
「ほわぁ、これが話にあったやつかぁ」
「これも美味しいですよ!」
毒味という建前はどこにいったのか。
4人で8個のケーキをシェアして食べる。
もうただの女子会であり、ヴィッツは穏やかな微笑みを浮かべてその様子を見ている。
「ルフォンはどれが好き?」
「んーとね、私はこれかな?」
単に甘いだけよりも少し果物の甘酸っぱさが口に広がるケーキがルフォンの好みだった。
「おっとな〜。私はこの甘々なやつがいいかな」
一通り食べたら味や好みの感想を言い合うこともまた醍醐味である。
「んじゃあ、リュードにも買ったげよか」
4人でケーキを平らげた。
8個のケーキの中でも評価の高い2個のケーキをリュード用に購入してお店を出た。
1人で治療薬を作ってくれているリュードのこともちゃんと忘れていないのである。
その後も服やアクセサリーを見たり、ご飯を食べたりして4人は色々なお店を回った。
ヴィッツは一流の執事らしくそんな雰囲気を壊さないように気配を消してついていっていた。
離れていた護衛たちも距離感をうまく掴んでいつの間にかラストもその存在を忘れるほどだった。
「あー、楽しかった!」
こんな風に遊んだのは初めてだった。
それはラストにとってもだけどルフォンにとってもそうであった。
村じゃこんな風にお店巡りなんてできないし、やろうとも思ったこともなかった。
ショッピングを楽しむことがこんなに楽しいことだなんて初めての感覚だった。
「こちらは?」
色々巡って最後の場所にやってきた。
町の繁華街から外れたところにある大きな建物でこれまでのお店とは毛色が違っている。
古ぼけた看板が掲げてあって、研究所というところだけがかろうじて読める。
何のお店だろうとすっかり打ち解けたツィツィナも首を傾げた。
「ちょっと差し入れと様子を見にね」
「ご様子ですか?」
誰とか何のとか聞く前にラストが中に入る。
「うへぇ……」
ルフォンがすごく渋い顔をする。
「なんというか、独特な匂いがしますね」
これまでに嗅いだことのない臭いが建物の中から漂ってきた。
いくつかの臭いが混じっていて何の臭いだと断定することも出来ない。
葉っぱのすりつぶしたような青臭い臭いが強く感じられらる。
ツィツィナやラストでもはっきりと感じられるほどに臭い。
鼻のいいルフォンにとっては相当キツイものであった。
ユーディカも同じく鼻が効くので鼻をつまんで口で呼吸している。
「リュード、きたよー」
奥の部屋に入るとそこは薬を作る場所というよりも実験施設であった。
すりこぎのようなものや薬剤を熱する器具、ガラスの瓶やなんかもたくさんあった。
「ん? おう、来たか」
ゴーグルにガスマスク姿のリュードが手を上げて来客を歓迎する。