「サキュルラスト様、お久しぶりでございます」
「お久しぶりです、トーミアさん」
ビューラの母であり、店長でもあるトーミアが店員を引き連れてラストに頭を下げた。
「この子はルフォンってんだ。これからお父様に会いに行くから似合うドレスを選んであげてほしい」
「かしこまりました」
「私はどうしたらいいの?」
「みんなに任せておけばだいじょーぶ!」
ちょっと不安げなルフォンにラストはニコッと笑顔を向ける。
「それではこちらに」
ルフォンが店員に連れていかれる。
なんだか力比べで優勝した時の雰囲気を思い出すなとルフォンは感じていた。
その時の感じに似ているような気がして、ルフォンも観念して大人しく連れていかれる。
美のプロフェッショナルが持つ力はなぜかルフォンをも圧倒するものなのである。
服飾関係者の持っている雰囲気は種族や作るものが違っていても共通するところがあるのかもしれない。
「お連れ様はこちらにどうぞ」
リュードの役目はせいぜい荷物持ちでありすることは少ない。
こんなことも慣れっこなお店には待つためのスペースも設けられていた。
店の隅にテーブルとイスが置いてあり、リュードはそこに腰掛ける。
リュードが座るのに合わせたようなタイミングでテーブルの上に紅茶が置かれた。
おかわりは自由でございますと言われた。
女性の服の買い物。
リュードは長期戦になることも覚悟して紅茶に口をつけた。
「まずは髪をとかしますね」
このお店はドレスが置いてあるだけではない。
オーダーメイドにも対応しているし、それだけではなくメイクアップなんかもやってくれている。
ドレスの着付けから何か何まで一流の職人がやってくれるので貴族から大人気のお店なのである。
まずは髪をとかしてくれるのだけどそれすらも非常に丁寧な手つきでルフォンの髪に櫛を入れていく。
さらに櫛一本にしても違うとルフォンは思った。
優しく、丁寧に髪をとかしてもらうだけでもちょっとしたお姫様気分。
そうしている間に別の店員がルフォンの体格や色を見てドレスをいくつかピックしてくる。
髪をとかし終わると今度は顔に何かを塗られる。
そしてルフォンに許可を取って毛先を切って整えたりともうドレス選びをしているのか何なのか分からないぐらいだった。
「それではまずこちらから着てみましょうか」
店員が持ってきたドレスの一つを手に取った。
まずは黒いドレスをルフォンは着させられる。
抵抗もせず、されるがままであった。
「うーん、艶やかぁー! 髪も瞳も黒だから纏まっていていい雰囲気!」
「そうですね、だいぶ大人っぽいですね」
ルフォンもルフォンで完全に力比べで優勝した時を思い出していた。
ドレスを着ると店員の間で品評会みたいなものが始まる。
全部が全部褒め言葉でルフォンも恥ずかしいやら嬉しいやら。
だけど着るドレスどれも綺麗で褒め言葉も相まって段々とルフォンの気分も高まってくる。
何をしても褒めてくれるものだから恥ずかしさも吹き飛んで楽しくなってくる。
ニコニコとしてちょっと回ってみたりとポーズを取ったりしてみたりと乗せられていった。
「ダメだわ!」
「な、何がダメ……?」
何がダメだったのか。
あんなに楽しくやっていたのに突然の発言にルフォンが不安そうにする。
ちょっと調子に乗り過ぎたかとショックを受ける。
「違う違う! あなたがダメじゃないのよ! 何がダメかっていうとあなた顔もいいから何を着ても似合ってしまうのよ。故に一つに絞りきれない……そんな私がダメなのよ!」
ルフォンのことを批判した言葉ではなかった。
全部いい、だから一つに決めきれない。
何か方向性を決めて絞っていかなきゃいけないのにそうできない。
プロフェッショナルとして失敗。
自分に向けられた葛藤の言葉であった。
「うーん……ルフォンさんはどのカラーとか形とかが良かったかしら?」
あまり押し付け過ぎても良くはない。
ルフォンの好みも反映する必要がある。
決めきれないならルフォンの好みから選んでいこう。
「えっと……」
そう聞かれても困る。
鏡で映し出した自分の姿はどれも心が踊って、どの姿でもリュードが喜んで褒めてくれそうだと思った。
「そんな風に聞かれたって困るしかありませんって〜」
「それもそうね」
どの色も、どのドレスも良かった。
決めかねて困り果てるルフォンに別の店員が助け舟を出す。
なんなら今まで着たやつ全部欲しいと言ってしまいそうになる。
「じゃあ、あなたの好きな色や誰にどう思って欲しいとかある? 可愛いとか大人っぽいとかそんな感じに思って欲しいってことはあるかしら?」
「私は……私はリューちゃんに……」
可愛いよ、とか似合ってるよ、とか言ってもらえるとそれで幸せだ。
ただどう思って欲しいかを考えてみる。
「私は大人っぽいとか綺麗って言われてみたいかな……」
考えて、一つ思った。
いつもとはまた違った褒め言葉を言ってもらいたい。
リュードはまだ少しルフォンのことを子供っぽくみている。
そんなリュードに大人の女性として褒めてもらいたい。
店員の話を聞いてふとそんなことを考えた。
「あとはコルセットは嫌かな?」
ドレスの中にはコルセットを着用するものもあった。
コルセットで締め付けるとウエストが信じられないくらいに細く見えて面白かったけれど苦しいしコルセットでの不自然な細さはルフォンが好きじゃなかった。
「オッケーよ。じゃあ……あれかしらね。コルセットは無しで細く見えるものと普通のものを試してみましょう」
「ええと、こんなんでいいんですか?」
ルフォンの要望を受けて店員たちはささっと動き出す。
大雑把で希望とも言えないような簡単な要望しか出していない。
しかも選んでいるのは王様に会いに行くためのドレス。
そんなんで本当にいいのか不安になる。
「女性が着たいと思えて、1番美しく見えるドレスを着ることに勝る礼儀なんてないわよ」
「そ、そうですか……」
店員が自信を持って言い切った言葉にルフォンは大人しく引き下がるしかなかった。
「お久しぶりです、トーミアさん」
ビューラの母であり、店長でもあるトーミアが店員を引き連れてラストに頭を下げた。
「この子はルフォンってんだ。これからお父様に会いに行くから似合うドレスを選んであげてほしい」
「かしこまりました」
「私はどうしたらいいの?」
「みんなに任せておけばだいじょーぶ!」
ちょっと不安げなルフォンにラストはニコッと笑顔を向ける。
「それではこちらに」
ルフォンが店員に連れていかれる。
なんだか力比べで優勝した時の雰囲気を思い出すなとルフォンは感じていた。
その時の感じに似ているような気がして、ルフォンも観念して大人しく連れていかれる。
美のプロフェッショナルが持つ力はなぜかルフォンをも圧倒するものなのである。
服飾関係者の持っている雰囲気は種族や作るものが違っていても共通するところがあるのかもしれない。
「お連れ様はこちらにどうぞ」
リュードの役目はせいぜい荷物持ちでありすることは少ない。
こんなことも慣れっこなお店には待つためのスペースも設けられていた。
店の隅にテーブルとイスが置いてあり、リュードはそこに腰掛ける。
リュードが座るのに合わせたようなタイミングでテーブルの上に紅茶が置かれた。
おかわりは自由でございますと言われた。
女性の服の買い物。
リュードは長期戦になることも覚悟して紅茶に口をつけた。
「まずは髪をとかしますね」
このお店はドレスが置いてあるだけではない。
オーダーメイドにも対応しているし、それだけではなくメイクアップなんかもやってくれている。
ドレスの着付けから何か何まで一流の職人がやってくれるので貴族から大人気のお店なのである。
まずは髪をとかしてくれるのだけどそれすらも非常に丁寧な手つきでルフォンの髪に櫛を入れていく。
さらに櫛一本にしても違うとルフォンは思った。
優しく、丁寧に髪をとかしてもらうだけでもちょっとしたお姫様気分。
そうしている間に別の店員がルフォンの体格や色を見てドレスをいくつかピックしてくる。
髪をとかし終わると今度は顔に何かを塗られる。
そしてルフォンに許可を取って毛先を切って整えたりともうドレス選びをしているのか何なのか分からないぐらいだった。
「それではまずこちらから着てみましょうか」
店員が持ってきたドレスの一つを手に取った。
まずは黒いドレスをルフォンは着させられる。
抵抗もせず、されるがままであった。
「うーん、艶やかぁー! 髪も瞳も黒だから纏まっていていい雰囲気!」
「そうですね、だいぶ大人っぽいですね」
ルフォンもルフォンで完全に力比べで優勝した時を思い出していた。
ドレスを着ると店員の間で品評会みたいなものが始まる。
全部が全部褒め言葉でルフォンも恥ずかしいやら嬉しいやら。
だけど着るドレスどれも綺麗で褒め言葉も相まって段々とルフォンの気分も高まってくる。
何をしても褒めてくれるものだから恥ずかしさも吹き飛んで楽しくなってくる。
ニコニコとしてちょっと回ってみたりとポーズを取ったりしてみたりと乗せられていった。
「ダメだわ!」
「な、何がダメ……?」
何がダメだったのか。
あんなに楽しくやっていたのに突然の発言にルフォンが不安そうにする。
ちょっと調子に乗り過ぎたかとショックを受ける。
「違う違う! あなたがダメじゃないのよ! 何がダメかっていうとあなた顔もいいから何を着ても似合ってしまうのよ。故に一つに絞りきれない……そんな私がダメなのよ!」
ルフォンのことを批判した言葉ではなかった。
全部いい、だから一つに決めきれない。
何か方向性を決めて絞っていかなきゃいけないのにそうできない。
プロフェッショナルとして失敗。
自分に向けられた葛藤の言葉であった。
「うーん……ルフォンさんはどのカラーとか形とかが良かったかしら?」
あまり押し付け過ぎても良くはない。
ルフォンの好みも反映する必要がある。
決めきれないならルフォンの好みから選んでいこう。
「えっと……」
そう聞かれても困る。
鏡で映し出した自分の姿はどれも心が踊って、どの姿でもリュードが喜んで褒めてくれそうだと思った。
「そんな風に聞かれたって困るしかありませんって〜」
「それもそうね」
どの色も、どのドレスも良かった。
決めかねて困り果てるルフォンに別の店員が助け舟を出す。
なんなら今まで着たやつ全部欲しいと言ってしまいそうになる。
「じゃあ、あなたの好きな色や誰にどう思って欲しいとかある? 可愛いとか大人っぽいとかそんな感じに思って欲しいってことはあるかしら?」
「私は……私はリューちゃんに……」
可愛いよ、とか似合ってるよ、とか言ってもらえるとそれで幸せだ。
ただどう思って欲しいかを考えてみる。
「私は大人っぽいとか綺麗って言われてみたいかな……」
考えて、一つ思った。
いつもとはまた違った褒め言葉を言ってもらいたい。
リュードはまだ少しルフォンのことを子供っぽくみている。
そんなリュードに大人の女性として褒めてもらいたい。
店員の話を聞いてふとそんなことを考えた。
「あとはコルセットは嫌かな?」
ドレスの中にはコルセットを着用するものもあった。
コルセットで締め付けるとウエストが信じられないくらいに細く見えて面白かったけれど苦しいしコルセットでの不自然な細さはルフォンが好きじゃなかった。
「オッケーよ。じゃあ……あれかしらね。コルセットは無しで細く見えるものと普通のものを試してみましょう」
「ええと、こんなんでいいんですか?」
ルフォンの要望を受けて店員たちはささっと動き出す。
大雑把で希望とも言えないような簡単な要望しか出していない。
しかも選んでいるのは王様に会いに行くためのドレス。
そんなんで本当にいいのか不安になる。
「女性が着たいと思えて、1番美しく見えるドレスを着ることに勝る礼儀なんてないわよ」
「そ、そうですか……」
店員が自信を持って言い切った言葉にルフォンは大人しく引き下がるしかなかった。