「殺す気か!」

「これぐらいで死ぬなら死んだ方がマシだろう!」

「このクソオヤジが!」

「はははっ! なんと言われようと手加減はしてやらんぞ!」

 魔人化したオヤジどもが身体強化を使って激しく攻撃をしてくる中で少し離れて魔法を得意にするオヤジたちがコンビネーションもよろしく正確にリュードに魔法を放ってくる。
 魔法は剣じゃ防ぎきれないから回避か魔法で相殺しなければいけない。

 どちらを取るにしても瞬間的な判断が必要になる上に近距離戦闘オヤジも魔法を放つこともあってリュードは体と頭も同時に疲弊していった。
 そのおかげか簡単な魔法なら無詠唱でも発動出来るようになり80日を迎える頃には大きなダメージを受けることがかなり少なくなっていった。

「いい目をしている。だいぶ強くなったな」

「おかげさまで」

「ふふっ、可愛くないな。ここからは俺が直接指導をつけてやろう」

 残り20日。
 もう終わりの方が近く、リュードも若干それを意識していた。

 珍しく朝からオヤジたちが来ないと思ったらこれまで来なかった師匠であるウォーケックが単独でリュードのところにやってきた。

「そうだな……まずはそのまま5日ほどやろうか」

 最初は真人族の姿のまま剣を抜く。
 純粋に剣の腕のみで戦い、他のオヤジはやってこない。

 師匠と弟子の真っ向勝負。
 周りのオヤジたちのちょっとした配慮である。

「次は魔人化だ」

 ウォーケックは剣を抜いて狼化する。人狼族は魔力の属性にかかわらず体毛は黒い。
 たった1人なのに威圧感は圧倒的でぐっと胸が苦しくなるような感覚まである。

 ウォーケックが笑うと牙が見える。始まりの合図もなく凶悪な笑み浮かべたまま体勢を低く構えて地面一蹴りでリュードに接近する。
 
 剣がぶつかり火花が散る。
 リュードは竜人化、ウォーケックは人狼化した魔人の姿のまま三日三晩戦った。

 そして一度3日分の食材を使って豪華な食事をしてまた2日夜通し戦う。

 最後は魔法ありで魔人族の姿と真人族の姿を1日ごとに切り替えてウォーケックと本気でやりあう。
 その間は差し入れはあったけれども食事もそこそこに戦い抜いた。

 ウォーケックがまだ本気なのかリュードには分からなかったけれど決して油断は出来ないレベルに達している自負はある。
 そして全体の日程が残り5日となった時点でリュードの所に更なる来訪があった。

「これは……」

「ウォーケック、残りは私に任せてくれないか」

「…………そうですね、弟子のためにもなるでしょう」

 ヤーネル・ドジャウリ、現段階でリュードが知る限り最強の男である村長自らがリュードのところに来てくれたのだ。
 後にこれは異例のことだと聞かされるのだが今のリュードにはそんなことは関係なかった。

 連日の訓練でハイにもなっているリュードは圧倒的強者を前にして笑っていた。

「ほう。竜人族にしては真人族のような感性を持つと聞いていたが……やはり竜人族のようだな」

「村長手ずから鍛錬してくれるというのだから嬉しくないわけないじゃないですか」

「そうか。では私も久々に本気を出すとしよう」

 身体中の毛中という毛穴が開くような殺気。
 とっさに身をよじって回避するとリュードがいたところにリュードの剣の倍はある太さの剣が振り下ろされていた。

 気を抜けば本当に死んでしまいそうな一撃。
 リュードは笑う。

 胸が高鳴って、これからの戦いに否が応でも期待してしまう。

「ここで俺が勝ったら村長交代ですか?」

「もし勝てるならそうしてみるといい!」
 
 5日後、リュードが訓練に使っていた家は壁も屋根も吹き飛んで野ざらしとなっていて、村長との鍛錬の激しさを物語っていた。

「くそっ……」

「はははっ、ここまでついてくるとはな。感心したぞリュード」

 結局村長を倒すことはできなかった。
 何度もやられてその度に治療をお願いして何度も立ち上がった。

 村長はリュードの能力だけでなくその諦めを知らぬ精神力にも感心していた。
 100日間の訓練が終わり、リュードは久々に家に帰った。

 極限の疲労はあったのだけどまだ精神的に興奮したような状態のリュードは周りの助けを借りることもなく家まで1人で帰ることができた。
 帰ってきたのは朝早くだったにも関わらずメーリエッヒもヴェルデガーも待ってくれていた。

 メーリエッヒは一つ、もしかするのもっと成長を遂げたリュードをぎゅっと抱きしめて迎えてくれる。
 料理も作ってくれていたみたいだけどリュードは母の抱擁の暖かさに負けて、そのまま気を失うように眠ってしまった。

「大丈夫かい?」

「ちょっと重たいけど大丈夫よ」

「ふむ、まだまだ子供だな。僕が部屋まで運ぼう」

「村長まで出てきてきっと大変だったんでしょう。案外この子も負けず嫌いだから」

「それでも大きくなってるな」

「いつの間にか私の背にも追いついているものね」

 ヴェルデガーは無邪気な寝顔を見て笑う。
 リュードを部屋に運んでやろうと背負って意外と息子が大きくなったことに気がついた。

 可愛い子供の成長を感じて2人は顔を見合わせて微笑んだのであった。