ちなみに竜人族だけでなく人狼族も含めてこうした真人族的な姿と魔人族の姿の2つの姿を持つ魔族は容姿に関する価値観も2つある場合も存在する。
 真人族の姿に対しての好みと魔人族の姿に対しての好みがそれぞれ違っていたりすることもたまにある。

 大抵真人族の姿で美形なら魔人族の姿でも美形なことが多い。
 だが魔人族の姿が好きじゃなくて別れた、その逆に真人族の姿じゃなく魔人の姿が好きで結婚したなんて話も魔族の世界ではあるある話だったりもする。

 リュードも最初は魔人族の姿についてよく分からなかった。
 そもそも普段からする姿ではないから意識したことがない。

 人狼族は人狼の姿になるのだけど竜人はカッコいい、人狼は可愛いぐらいの特殊メイクでも見るような感覚だった。
 けれどリュードにもいつの間にかなんとなく好みみたいなものが生まれていた。
 
 本能というやつだろうか。
 真人族の姿は真人族の姿だけど魔人族の姿は魔人族の姿で良く思えるようになっていた。

 最たる例はルフォンだ。
 ルフォンは真人族の姿も可愛らしいけど魔人族の姿も相当美形でグッとくる。

 種族は違うけど良いものは良い。
 人狼族は魔力の影響もなく黒いのだけど黒の程度の違いがある。

 ルフォンは真っ黒でモフモフとして、なんだかいい感じなのだ。
 自分の魔人の姿もかなり美形になるとリュードは自覚している。
 
 リュード自身も黒いドラゴン姿はカッコよくて好きでリュードは知らないがひっそりと竜人族の姿の人気もあった。

 先祖返りの黒い姿はオヤジたちにとっても眼を見張るものがあるのかリュードの姿を見て何人かから感嘆の声を漏らす者もいれば面白そうだと笑う者もいる。

 竜人化の弱点としては普通の服が破けてしまうことなのだけど今回は当然ちゃんと普通の服は脱いでいる。
 代わりに戦闘衣と呼ばれている服を身につけている。

 戦闘衣とだけ聞くとカッコいいと思える。
 けれど中身は竜人化する時の大きさに耐えられる伸縮性を持ったスパッツのような下着とチャイナ服の下のような下半身を包み込む深いスリットの入ったスカートのような服のことをそう言っている。

 上半身は女性ならチューブトップのようなもので胸も隠すが男の上半身は基本的にむき出し。
 戦闘がないなら普通の服装をする人も多いけど楽だから戦闘衣で過ごす人もそれなりの数がいる。

 かくいうリュードも戦闘衣は楽で好きなので家なんかでは普段着がわりにしていることもある。
 元々戦闘衣は竜人族の文化であった。

 人狼族は魔人化すると全身毛に覆われてしまうから魔人の姿では服を身につけることはなかった。
 しかしこの村に住む人狼族は竜人族がそうした魔人化用の服を身につけることを知って同じく戦闘衣を身につけるようになった。

 ちなみに人狼族では魔人化、竜人族における竜人化のことを人狼化という。
 オヤジたちも戦闘衣を身に纏い、リュードに続いて竜人化や人狼化をしていく。

 それなりに広いはずの建物の中も魔人化して一回り大きくなったオヤジたちが集まれば狭くも感じる。
 特に人狼族は毛が生えるので竜人族よりも大きくなったように感じられる。
 
 魔人化した人狼族と竜人族を前にしてリュードは身震いする。
 恐怖や不安ではない。

 リュードも竜人族なのだ、心のどこかでこの理不尽な訓練で行われる戦いに喜びを感じている。

「さぁて、シューナリュード……覚悟しろよ!」

 苛烈。
 魔人化まですると折り返しとなるのだけどまだまだ一切気を抜くことができない。
 オヤジたちは本気で殺しにかかってきていると思えるほどリュードに襲いかかってきた。

 結果魔人化訓練が始まってから3日でずっと使ってきた刃潰しされた愛用の剣が中ばからポッキリと折れて使い物にならなくなった。
 これもリュードの技術不足が故に剣に負担となってしまっていたのだ。

 すぐに村で鍛治作業をやっているところに持って行ってくれたけれど簡単に直るわけでもなく、かといって鍛錬も休みになるわけでもない。
 剣が直るまでの間には剣に頼らない戦い方、つまりは魔人化しての本来の武器である爪や腕力を使っての戦いをやらされた。

 全くやってこなかった戦い方のために苦労はした。
 けれど爪や拳を使っての戦いもやっていればあっという間に慣れて、剣よりも小回りが利き悪くないものだと見直した。

 魔人化して戦い始めて早10日。
 全体を通して65日が過ぎて65日目にさらに訓練は激しさを増す。

 魔法が解禁された。
 身体強化もできるようになってオヤジたちも一段と力を増す。
 
 竜人族は魔力も多く魔法が得意なので戦闘中も攻撃魔法が飛んでくる。
 純粋な真人族の魔法使いのように立ち止まってしっかり魔力を充実させたりしてから魔法を使うなんてことは実戦じゃまずあり得ない。

 動きながら魔力を練り上げて動きながらも魔法を打つ。
 そして動きながら魔法を防いだり回避したりしなければならない。

 こうした訓練も行う必要がある。
 魔法をより得意とするオヤジ連中の顔がなんだか嬉しそうに見えた。