1体、また1体とスケルトンが男に向かって走り出す。
 男は剣を抜いて詰めてきたスケルトンを2体ほど切り倒すとすぐさま体を反転させて走り出す。

「恐怖の光景だな……」

 人の全力疾走に比べれば遅いスケルトンだけれど一斉に走り出す光景には圧力を感じる。
 逃げる男は真っ直ぐチッパの方に向かうのではなく、かつ全力疾走でもなく斜めに走る。
 
 不自然な軌道を描いて逃げた男は一度立ち止まる。
 男の方に真っ直ぐに向かってきていたスケルトンたちは男に手が届きそうなところまできた瞬間落ちた。

 それは土魔法で作った即席の落とし穴だった。
 上に乗ったスケルトンの重さによって地面が抜けた。

 底には使わない槍を立ててあり、落ちたスケルトンが槍にぶつかり砕ける。
 続々と後ろからくる他のスケルトンに押されて穴に面白いようにスケルトンが落ちていく。
 
 変な軌道を描いていたのは男は落とし穴を避けつつ、スケルトンたちを落とし穴に誘導していたためであった。
 今度は逆の方に男が斜めに走り出す。

「行こう」

 城壁の上からその様子を見ていたリュードは移動を開始した。
 用意した落とし穴は3つある。
 
 あれなら3つ全てで成功するだろうと思ったので最後まで見届ける必要はない。
 リュードがいるべき場所は城壁の上ではない。
 
 魔法も使えるのでいてもいいのだけどもっとやるべきことがある。
 リュードの予想通り落とし穴は3つとも成功した。
 
 スケルトンが落ち、槍で砕けていき、またさらにスケルトンが落ちてその衝撃で下のスケルトンは砕けていく。
 穴に詰まったスケルトンはスケルトンに踏みつけられて砕けてしまう。
 
 だいぶ数が落ちたのだけれども、スケルトンの大群が減っているようには見えなかった。
 落とし穴にスケルトンを誘導した男は城壁から下ろしたロープに掴まる。
 
 上の人たちが一気に引き上げて男を回収して無事を確認した。
 スケルトンたちは城壁まで迫って本格的に籠城戦が始まった。

「放て!」

 城壁の上から弓矢や火の魔法が放たれる。
 スケルトンは一面を覆い尽くしているので特に狙いを定めなくても面白いように攻撃が当たる。

 より接近されたら今度は上から岩を落とす。
 落とし穴を作るのに掘った土も魔法で固めて上から投げ落とす。

 スケルトンが砕けて動かなくなり、後ろから来た他のスケルトンに踏み潰されていく。

「門を開けろ!」

 ゆっくりと門が開いてスケルトンがなだれ込んでくる。
 
「神よ、魔を払う力を与え給え!」

 神官がみんなに神聖力を付与する。
 神官たちも町を見捨てるようなことをしないで共に残ってくれた。
 
 各々の武器が淡く光り、神聖力が宿る。

「閉じろ!」

 ある程度のスケルトンを招き入れると門を閉じる。
 あえて門を開けてスケルトンを中に入れた。

 門を閉じて籠城に徹したところで波のように打ち寄せるスケルトンたちを防ぎ切ることはできない。
 少しでもスケルトンを減らしていかなきゃいけない。

 本当なら完全に籠城をして援軍を待つのがいい。
 けれど仲間を踏みつけることも厭わないスケルトンは押し寄せれば押し寄せるほど城壁に圧力を与え、縦に積み重なって最後には城壁を乗り越えてしまう。
 
 門を開けることでスケルトンの動きの流れを変えて、引き込んだスケルトンを倒すことで数を減らし、少しでも時間を長く稼ごうというのである。
 焼け石に水のような作戦だけど、スケルトンが他に散ることも防げるしやらないよりはやるしかないのだ。

「俺に任せとけ!」

 ボーンフィールドダンジョンの方向にある北門をリュードたちは担当することになった。
 神聖力をまとった剣は容易くスケルトンを切り裂き、あっという間に倒していく。

 そうして戦う冒険者の中で一際目立つ赤い男がいた。
 大剣を振り回し先頭に立ってスケルトンと戦っていたのはレヴィアンであった。

 チッパで広報活動していたレヴィアンはなんと避難しなかった。
 他国の町のことで関係がないはずなのに、この町には獣人族が多く住んでおり、獣人族の故郷であるならばと自ら町に残って共に戦うことを選んだのであった。

 意外な男気にリュードもレヴィアンを見直した。
 声を出してスケルトンの注目を集めながら戦うレヴィアンは獅子らしい力を遺憾なく発揮している。
 
 レヴィアンの持つ大剣なら神聖力の効果がなくても容易くスケルトンを砕き倒してくれる。
 そこに神聖力の支援があるので簡単にスケルトンが小枝のように倒されていく。

「はっ!」

 リュードたちも負けてはいられないと戦う。
 ラストがムチをふるってスケルトンの頭を砕いた。
 
 ムチだからと侮るなかれ。
 実際ムチで攻撃されるとバカにならない威力がある。

 魔力を込めて威力と操作性を高めたムチは神聖力の効果も相まって軽々とスケルトンを破壊していく。
 ムチで十分な戦力的役割をラストは果たしている。

 ラストに負けてはいられないなとリュードもスケルトンを倒す。
 最初なので少なめに入れられたスケルトンはあっという間に動かぬ骨にされてしまった。

 のんびりとしている時間はない。
 すぐさま次のスケルトンが入れられる。

 そんなことを何回か繰り返してスケルトンを倒していくけれど、門の向こうに見えるスケルトンは隙間がなく減っているように感じない。
 スケルトンそのものは弱くても終わりが見えない戦いというのは精神を消耗させていた。