振り返らずただ馬を走らせる。
今にも後ろから手が伸びてくるのではないかと不安を振り払うように全速力でチッパに向かう。
「うわっ!」
暗い中で走らせたものだから地面から出ていた木の根っこに馬が足を引っ掛けてしまい、体が空中に投げ出される。
「うぐ……」
左肩を地面に打ち付けた。
ひどく痛んで肩が動かない。
肩を脱臼してしまった。
歩くとその衝撃で肩に激痛が走るけれど休んでいる暇はない。
右手で肩を押さえて歯を食いしばって走り出す。
「おーい……」
「誰だ!」
巡回中の衛兵が弱々しく聞こえてくる声に反応した。
チッパの町を囲む城壁の上から松明を投げて声の主を探す。
松明の明かりに照らされてようやくその姿が見えた。
肩を押さえて青い顔で走ってきた男に衛兵は見覚えがあった。
「おい、大丈夫か! 門はあっちだ!」
衛兵は走っていって門を開ける。
こんな時間にあんな様子で走ってくるなんて只事ではないとざわつくような不安を覚える。
「み、水……」
「水だな、待ってろ! おーい、誰か手伝ってくれ!」
衛兵が酒を飲む大きなジョッキに水を入れて戻ってくると男は他の衛兵によって治療を受けていた。
「ほら、水だ」
「あ……」
グッと一気にジョッキの水を飲み干してしまう。
「何があった。お前ダンジョンの見張り担当のやつだろ?」
ダンジョンの見張りは暇だけど、ダンジョンの側での担当だから危険手当てもついて割がいい。
基本的には危険なこともないし面倒な上司も滅多にこないからやりたがる奴も意外に多い配属先で羨ましがられる。
直接知り合いでなくとも多少羨ましい相手として顔を知っている奴も多く、男が少し後輩の見張り番だったことを衛兵は覚えていた。
「す、すぐに上に伝えてほしい……!」
「だから、何をだ?」
「ダンジョンブレイクが起きた!」
「なんだと!?」
見張り番から飛び出してきた驚きの言葉に衛兵は思わず固まってしまった。
冗談かと思ったけどこんなタチの悪い冗談を言う人はいない。
「早く隊長に知らせろ!」
衛兵は部下に指示を飛ばしてすぐに城壁の上に上る。
幸いにしてまだ周りに変化は見えていない。
けれどこう暗くては先まで見通せないので、もしかして見えていないほんの少し先では異変が起きているかもしれないと思うと背中が寒くなる。
程なくして衛兵隊長が飛んできた。
事情を見張り番の男から聞くとボーンフィールドダンジョンがいきなりダンジョンブレイクを起こしてスケルトンが中から溢れ出してきたらしい。
見張り番の男は他の見張りがスケルトンを抑えている間に1人報告のためにダンジョンからチッパに急いできたそうだった。
報告を受けて衛兵隊長の顔からも血の気がひく。
ボーンフィールドダンジョンがダンジョンブレイクを起こしたことなど過去に一度もない。
ボーンフィールドダンジョンは普通のダンジョンよりも魔物の数が多くて簡単にはいかないダンジョンである。
これはまずいと思った。
ここでチッパがわずかに運が良かったのはこの衛兵隊長が正義感のある真面目な人物であったことである。
町を見捨てて1人逃げ出すクズではなく、多くの人の命を救うためにはどうしたらよいかを考えた。
「異常事態を知らせる鐘を鳴らせ、町の全員が起きるまで鳴らし続けるんだ。こうした事態は冒険者の方が詳しいから冒険者ギルドに人をやって協力を仰ぐんだ!」
パニックが起きる可能性も十分にある。
けれどボーンフィールドダンジョンはチッパの町からそう離れておらず対策を十分に練ってから町の人に行動を促していては間に合わないと考えた。
「ダンジョンブレイクが起きたことと荷物をまとめることを町中に触れて回れ! 全ての責任は私が取る!」
逃げ出そうとした人でケガ人やなんかが発生することはもはや仕方ない。
備蓄や武器の確認、他の町への支援要請など思いつく限り必要な指示をする。
「こんなことになるとはな……」
上司に歯向かったがために割と田舎のチッパに追いやられた。
衛兵隊長はまだここに赴任したばかりであった。
ーーーーー
「な、何この音?」
「わかんない。でもとりあえず宿に帰ろう!」
「うん!」
ラストは一瞬だけ夜道で号泣したせいで怒られたのかと思った。
慌てたルフォンたちだけど、どうやらそんなこととは関係なく町中に鐘の音が響いていた。
家々に明かりが灯り始め、みな窓を開けて何事かと確認しようとしている。
宿に戻るとリュードたちも起きてルフォンたちの部屋の前にいた。
部屋にいなくて心配だったけれど無事でいて一安心した。
「2人とも無事か?」
「うん、大丈夫だよ。この音なぁに?」
うるさくてミミが痛いとルフォンは顔をしかめる。
「みなさん落ち着いて聞いてください! 近くのダンジョンにてダンジョンブレイクが起きたと思われます。まだ状況は確認中ではありますが逃げられるよう、お荷物をまとめておいてください」
開け放たれた窓から声が聞こえてきた。
大きな声で何度も同じ内容が繰り返されていて、宿の中でもざわつきが一旦静かになってみんな外から聞こえる声に耳を傾けていた。
今にも後ろから手が伸びてくるのではないかと不安を振り払うように全速力でチッパに向かう。
「うわっ!」
暗い中で走らせたものだから地面から出ていた木の根っこに馬が足を引っ掛けてしまい、体が空中に投げ出される。
「うぐ……」
左肩を地面に打ち付けた。
ひどく痛んで肩が動かない。
肩を脱臼してしまった。
歩くとその衝撃で肩に激痛が走るけれど休んでいる暇はない。
右手で肩を押さえて歯を食いしばって走り出す。
「おーい……」
「誰だ!」
巡回中の衛兵が弱々しく聞こえてくる声に反応した。
チッパの町を囲む城壁の上から松明を投げて声の主を探す。
松明の明かりに照らされてようやくその姿が見えた。
肩を押さえて青い顔で走ってきた男に衛兵は見覚えがあった。
「おい、大丈夫か! 門はあっちだ!」
衛兵は走っていって門を開ける。
こんな時間にあんな様子で走ってくるなんて只事ではないとざわつくような不安を覚える。
「み、水……」
「水だな、待ってろ! おーい、誰か手伝ってくれ!」
衛兵が酒を飲む大きなジョッキに水を入れて戻ってくると男は他の衛兵によって治療を受けていた。
「ほら、水だ」
「あ……」
グッと一気にジョッキの水を飲み干してしまう。
「何があった。お前ダンジョンの見張り担当のやつだろ?」
ダンジョンの見張りは暇だけど、ダンジョンの側での担当だから危険手当てもついて割がいい。
基本的には危険なこともないし面倒な上司も滅多にこないからやりたがる奴も意外に多い配属先で羨ましがられる。
直接知り合いでなくとも多少羨ましい相手として顔を知っている奴も多く、男が少し後輩の見張り番だったことを衛兵は覚えていた。
「す、すぐに上に伝えてほしい……!」
「だから、何をだ?」
「ダンジョンブレイクが起きた!」
「なんだと!?」
見張り番から飛び出してきた驚きの言葉に衛兵は思わず固まってしまった。
冗談かと思ったけどこんなタチの悪い冗談を言う人はいない。
「早く隊長に知らせろ!」
衛兵は部下に指示を飛ばしてすぐに城壁の上に上る。
幸いにしてまだ周りに変化は見えていない。
けれどこう暗くては先まで見通せないので、もしかして見えていないほんの少し先では異変が起きているかもしれないと思うと背中が寒くなる。
程なくして衛兵隊長が飛んできた。
事情を見張り番の男から聞くとボーンフィールドダンジョンがいきなりダンジョンブレイクを起こしてスケルトンが中から溢れ出してきたらしい。
見張り番の男は他の見張りがスケルトンを抑えている間に1人報告のためにダンジョンからチッパに急いできたそうだった。
報告を受けて衛兵隊長の顔からも血の気がひく。
ボーンフィールドダンジョンがダンジョンブレイクを起こしたことなど過去に一度もない。
ボーンフィールドダンジョンは普通のダンジョンよりも魔物の数が多くて簡単にはいかないダンジョンである。
これはまずいと思った。
ここでチッパがわずかに運が良かったのはこの衛兵隊長が正義感のある真面目な人物であったことである。
町を見捨てて1人逃げ出すクズではなく、多くの人の命を救うためにはどうしたらよいかを考えた。
「異常事態を知らせる鐘を鳴らせ、町の全員が起きるまで鳴らし続けるんだ。こうした事態は冒険者の方が詳しいから冒険者ギルドに人をやって協力を仰ぐんだ!」
パニックが起きる可能性も十分にある。
けれどボーンフィールドダンジョンはチッパの町からそう離れておらず対策を十分に練ってから町の人に行動を促していては間に合わないと考えた。
「ダンジョンブレイクが起きたことと荷物をまとめることを町中に触れて回れ! 全ての責任は私が取る!」
逃げ出そうとした人でケガ人やなんかが発生することはもはや仕方ない。
備蓄や武器の確認、他の町への支援要請など思いつく限り必要な指示をする。
「こんなことになるとはな……」
上司に歯向かったがために割と田舎のチッパに追いやられた。
衛兵隊長はまだここに赴任したばかりであった。
ーーーーー
「な、何この音?」
「わかんない。でもとりあえず宿に帰ろう!」
「うん!」
ラストは一瞬だけ夜道で号泣したせいで怒られたのかと思った。
慌てたルフォンたちだけど、どうやらそんなこととは関係なく町中に鐘の音が響いていた。
家々に明かりが灯り始め、みな窓を開けて何事かと確認しようとしている。
宿に戻るとリュードたちも起きてルフォンたちの部屋の前にいた。
部屋にいなくて心配だったけれど無事でいて一安心した。
「2人とも無事か?」
「うん、大丈夫だよ。この音なぁに?」
うるさくてミミが痛いとルフォンは顔をしかめる。
「みなさん落ち着いて聞いてください! 近くのダンジョンにてダンジョンブレイクが起きたと思われます。まだ状況は確認中ではありますが逃げられるよう、お荷物をまとめておいてください」
開け放たれた窓から声が聞こえてきた。
大きな声で何度も同じ内容が繰り返されていて、宿の中でもざわつきが一旦静かになってみんな外から聞こえる声に耳を傾けていた。