「え、たっっっっか!」

「やっぱりか」

 アンデッドに対するものでなおかつ教会にあるもの、といえば聖水である。
 対アンデッド用の定番の商品で直接アンデッドにふりかけてもよし、武器にかければ一時的に武器に神聖力を宿らせて戦うことができる。

 実は聖水の値段も品質も一定ではない。
 作る人や作る教会、作る場所によって効果や値段といったものが変わってくる。

 他の活動と違って聖水の生産は慈善事業でもないので値が張ることはしょうがない。
 けれど限度ってものがあるとリュードは渋い顔をした。

「ちょ、これ本当!?」

「本当でございます」

 ラストが思わず教会の神官に確認してしまうほどチッパにある教会で売ってある聖水は高かった。
 高いことは予想はしていたけれど思っていたよりも高い。

 気軽に買って使える値段ではない。
 高い要因はもちろんボーンフィールドダンジョンが近くにあるせいで聖水の需要が高いことに起因している。

「ええ〜!」

「どうかご理解ください」
 
 ただし高い理由はそれだけではない。
 スケルトンが出ることがわかっているダンジョンがあるので作られる聖水の品質も1番安い聖水のものからすでに高い。

 さらに偽物対策に1ビン1ビンに教会の刻印が施されている。
 そりゃ値段も上がるというものである。

 需要と供給の問題から値段が高いことはどうしても起きてしまう。
 パーティーに聖職者がいないなら聖水に頼るしかないので多少の商売っ気を出してもみんな買っていくのだ。

 教会も教会で聖水の質を上げて値段も上げ、紛い物とちゃんと区別できるようにもしている。

「どうするかだな」
 
 非常に悩ましいところだとリュードも目を細めて聖水のビンを眺める。
 高いのは高いのだけれど手が届かないものでもない。

 ここでまた厄介なのは弓矢に関しては聖水の効果も限定的となることだった。
 矢筒一つ分の矢に聖水をかけてどうなる。

 打ち切ってしまうと矢を回収しなきゃいけない。
 スケルトンの胴体を狙うのは難しいので聖水をかけたところで結局は頭を狙うことになる。

 だから弓矢に聖水を使っても値段ほどの効果が得られるのか怪しいのだ。

「しょうがないとはいえ、あくどい商売だよな」

 聖水も一つだけではなく、複数種類がある。
 その違いは効果の強弱によるもので、効果が弱いものは持続時間も短くてすぐに効果が切れてしまう。
 
 効果が強くて長く持つものもあるけど高い。
 それにおそらく一本だけ買っていったところで持たないことは確実。

 魔物の数多めのダンジョンでは時間なんかあっという間に過ぎていく。
 広くてフィールド型のダンジョンなら尚更である。

 ボスであるデュラハンも探して、デュラハンにも神聖力が必要なことを考えると必要な聖水の数は多めに見積もっておかねばならない。

 これが神聖力の宿っている武器でもあったのなら良かったのにと思う。
 いわゆる聖遺物とか言われる類の武器のことである。

 ただそんなもの手元にあるわけないし、聖遺物はそこらにあるものでもない。
 2人きりで攻略しなきゃいけないので聖職者を雇って連れていくこともできない。

「どうする?」

「……一旦帰ろう」

 もっとダンジョンに関する情報を集めて効率的な方法を考える必要がある。
 とても2人で攻略するダンジョンじゃない。
 
 ボス部屋があるならスケルトン一切無視でボス部屋に駆け込んでしまう方法もあるけれど、毎回姿の異なるデュラハンを広いダンジョンの中で探し回るのは骨が折れる。
 スケルトンを無視して探し回ってデュラハンを見つけても最終的に追いかけてきたスケルトンに囲まれることになる。
 
 ひとまず宿に帰って情報の整理をして、今後の対策を考えることにした。

「リュード、見て!」

「……どこからそんなの出してきた?」

 もっと早くからダンジョンのことを調べて聖水でも買っておけばよかったと思った。
 前の町なら手頃な値段で聖水も売っていた。

 リュードが反省しているとラストがどこからかムチを取り出していた。
 道中どこかで買ったものではない。

 ある程度使い込んでいることも見受けられるし元々持っていたもののようだ。
 
「私は監視されてたから剣とかそんなのはあんまり練習するの避けてたけどムチは扱えるんだ! これを振り回してても遊んでるようにしか見えないでしょ?」

 武芸に関しても才能があることをラストはひた隠しにしてきた。
 そのために剣とか槍とかそういったものとは距離を置いていたのだけど身を守れる必要はあった。

 そんな時に見つけた苦肉の策がムチだった。
 武器でありながら才能があるのかないのか分かりにくく、武器としては見られにくい。

 真面目に扱っているとも考えられにくくて上達してもそれを見抜ける人なんてほとんどいなかった。
 意外とムチを振り回すのも楽しくてラストはムチを気に入って練習した。

「ほっ、ほいっ!」

 遊んでいる風も装いつつムチを練習していて、それなりに扱えるようになっていた。
 リュードに見せつけるようにムチを振り回す様は意外と様になっている。

「やっ、やっぱダメ……かな?」

「良いじゃないか!」

「ほ、ほんとう?」

「ああ、どうしたらいいか悩んでいたけどこれでかなり楽になる!」

 正直なところラスト自身がムチに期待していなかった。
 大っぴらにはできない才能なので隠れながらがメインで練習していたものだったから。

 不安げにリュードに視線を向けたラストは想像していなかった反応に顔を赤くすることを止められなかった。
 お世辞でもなんでもなくムチならアリだとリュードは思う。
 
 ムチは属性的には打撃系の武器になる。
 脆いスケルトン相手ならムチは十二分に威力を発揮することが出来る。