「えいっ!」
 
 しかし剣を抜くこともできずに男は地面に激突して気を失った。
 木の上に潜んでいたルフォンは飛び降りて、重力の力も借りて鷲掴みにした男の頭をそのまま地面に打ちつけた。

 思い切り地面に頭を打ち付けた男は気を失う。
 姿こそ見せなくても監視がバレてしまうようなお粗末な監視役ではルフォンたちに敵うはずもなかった。
 
「あっ、私がやったのに」

「女性の手を煩わせるわけには参りません」

 ヴィッツが地面に顔をめり込ませて気絶する男にとどめを刺した。
 これでルフォンたちを監視するものはいなくなったので気兼ねなく動くことができる。

「外は危険ですから。魔物に襲われてしまうこともあるでしょうね」

 プジャンならルフォンたちが監視役を片づけた可能性には気づくこともあるだろう。
 ただもう監視しているものはいないので何があったのかはルフォンたちしか知らずに闇の中。
 
 外にいる以上は魔物に襲われることもあるので一概にルフォンたちがやったとも言えない。
 一応の言い訳は立つ。
 
 そもそも監視をつけていて、それがいなくなったのはお前らのせいだろと文句をつけることができたらの話である。
 文句を言ってくる可能性は限りなく無いに等しいけど万が一を考えて証拠も残さない。
 
 ヴィッツは魔法で死体を燃やして身元も死因も分からなくさせておく。

「それでは本格的に探しましょう」

 毒草で、しかもあまり情報がないということはきっとそこらへんで簡単に生えているものでない。
 ルフォンたちはとりあえず山の上の方に向かうことにしてみた。

 イェミェンは色が独特なので視界に入れば分かる。
 見える場所にあれば発見できるし、見えなかったら確認しにくそうな場所の目処をつけてそこから潰していこうと考えた。

「うーん、見えないね」

 木の上に登ったルフォンが周りを見回す。

「若くて目がよろしいルフォン様でお見えにならないのなら私で見えるはずもありませんな」

 山の上に来たけれど山もなだらかで思っていたよりも高くないので見渡せる範囲も広くない。
 キョロキョロと周りを見てみたけどそれらしいものは見えなかった。

 山は木が多くないのだが、上から見てみると何箇所か木が密集しているようなところがある。
 何となく木々が密集しているところを目に焼き付けて、順に巡っていくつもりでルフォンたちは移動を開始した。

 目を皿のようにしてイェミェンを探しているけれど一向にそれらしい葉っぱはない。
 
「やはり素人がそうした薬草や毒草を見つけることは難しいことなのかもしれないですね」
 
 イェミェンについての情報も少ないので事前に調べた赤紫という色に関する情報も正しいかもわからない。
 実は色が違ったり、季節によって色が変わる葉もあるのだから今は赤紫ではないなんてこともあり得る。

 そんなことを考えながら歩き回っていた。

「ルフォン様……」

「うん、わかってる」

 歩いているとまた人の気配をルフォンとヴィッツは感じていた。
 気配は二人のことを囲むようにして多く感じられる。
 
 監視役の人がまた来たのかと思ったけれど相手が堂々と姿を現してルフォンたちを取り囲んで監視ではないとすぐに分かった。

「ヘッヘッヘッ……」
 
 身なりはお世辞にも綺麗とは言えない男たちが姿を現した。
 先ほどの監視の連中はちゃんとした身なりをしていたので明らかに違っている。
 
 囲う人数も頭数が多く、ルフォンたちを監視している人ではないことは確かである。
 ニヤニヤと笑う男が顎をしゃくって何かの指示を出すと男たちの中の一人が斧を投げつけた。
 
 ヴィッツがルフォンの前に出て受け流すようにして斧を地面に叩き落とす。

「あなたたち何者ですか?」

「お前らこそこんなところで何してやがる。ここは俺たちのナワバリ。よそ者が勝手に入ってきていい場所じゃねえぞ」

 男たちはいわゆる山賊という連中であった。

「ただ俺たちはただの荒くれ者じゃねえ。無事に出たいというなら出してやってもいい……ただしそこの女を置いてくならな。そうすりゃそこのジジイの命だけは助けてやるってもんよ。紳士的だろ?」

 ルフォンをいやらしい目で見て大笑いする山賊たち。
 何も面白くなく、ただただ不愉快で不快だとルフォンは思った。

「あなたたちこそ、今逃げ出せば命だけは助けて差し上げますよ?」

「なんだと?」

「ちなみに私たちはイェミェンという植物を探しているのですが何か知ってはいませんか?」

「あぁ? お前らなんでアレを探しにきた!」

「ほう? 何か知っているようですね?」

「悪いがイェミェンはやれねえな。お前ら、こいつらをとっ捕まえて誰の差金が聞き出すんだ!」

 山賊たちが一斉に武器を構えてルフォンたちに襲いかかる。
 聞き出し方は指定されていない。
 
 ルフォンに対して下卑た妄想を膨らませている奴もいたて気持ちの悪いニヤけ顔を浮かべている。

「あのリーダー風の男さえ無事でしたら他の者はどうなっても構わないでしょう」

「オッケー、人のこと嫌な目で見てくる罰は受けてもらうよ」

 ある意味頭の中が桃色の妄想でいっぱいだったやつは幸せだったかもしれない。
 その妄想のままに最後を迎えることになったのだから。

「なっ、速い……」

 動き出したルフォンに山賊たちはついていけない。
 両手のナイフで流れるように山賊を切りつけていくルフォンに全く反応ができずに何人かが喉から血を流して倒れていく。

「おい、こっちのじいさんを誰か」

 山の中でも執事服のヴィッツは細めの片手剣で山賊の首を刎ねる。
 素早く無駄のない動き、相手の次の行動を予想するように山賊の攻撃をかわして一撃で仕留めていく。