そんなくだらないことで薬の量を勝手に減らすなんて許されることではない。
 クゼナに死なれたらプジャンも困るのですぐに薬の量は戻されたが進行を遅らせる薬なので一度石化してしまったらもう治りはしない。

「だから今は大丈夫なんだけど、足はこんなんになっちゃったんだ」

 クゼナは悲しげに笑う。

「……そんな顔しないで! 私が絶対に治したげるから!」

 リュードは考える。
 イェミェンが見つかれば治療薬の材料が揃う目処はたつけれどそれ以降のことはまだまだ決まっていない。
 
 まずは実際に治療薬を作る人が必要だ。
 知識のあるリュードには分かるが治療薬の製法は案外難しいものであった。
 
 設備も必要で、作り方を間違えるとただの毒薬になってしまう可能性もある。
 それなりの設備とそれなりに腕の良い薬剤師が必要になる。

 次に治療する人。
 針での治療が出来る人が必要になる。

 針治療が出来る人もあまり多くはないので今から探してみてもそうそう見つかるものでもない。

「…………んっ?」

「リュード? どうかしたの?」

 リュードが思わず声を漏らしてルフォンが首を傾げる。
 リュードには薬学の知識があり村ではポーションを自分で作るぐらいのこともしていた。
 
 製法も理解しているし作れない物ではないと思っている。
 設備は流石に持ってもいないけれど、設備さえあれば作れる。

 さらに針治療の知識もある。
 久しくやっていないので少し不安はあるけど出来ないこともない。

「リューちゃん?」

「……俺じゃないか?」

「何が?」

 3人の女性たちが不思議そうな顔でリュードを見る。
 治療薬を作れて針治療も出来る。

 求めていた人材こそまさしく自分ではないかと気がついた。
 リュードは考えていたことを説明する。
 
 自分で自分のことをなんでも出来るように言うのはちょっと恥ずかしいけど、自分ならクゼナの治療をすることができる。

「えええっ!」

 自分ならできるかもしれないというリュードにラストは驚いた。
 単に知識があるだけでなく、治療薬も作れて針治療も出来るだなんて驚く以外にリアクションもない。

「リューちゃん、ポーションも自分で作るもんね。……そういえばあの怪しいおじいさん針治療してたけど習ってたんだ」

 ルフォンはリュードについて回っていたけど四六時中一緒にいたわけでもない。
 基本は一緒にいたけど、どうしても一緒にいられない時もあった。

 村にいた針治療するおじいさんはルフォンにとっては結構怪しめの人な印象だった。
 リュードは針治療を教えてもらったり付き合いがあったので分かるけれど、とにかく人付き合いが下手くそな人だった。

 リュードがおじいさんのところに通っているときはルフォンがいないことも多かったのだ。

「リュード、早くダンジョンに行こう!」

 つまり薬を作るための人材は用意できたことになる。
 そうなると必要なのは薬の材料と薬を作るための設備となる。

 そして薬を作るための材料となるイェメェンはラストが挑む大人の試練のダンジョンの近くにあるのだ。

「そうだな、イェミェンが手に入るかどうかか一番の鍵だからな。ただ、計画はちゃんと考えて修正しておこう」

 メイドをクビにすることを拒むぐらいならこの屋敷にスパイがいる可能性は低い。
 ヴィッツにも中に入ってもらい、当事者でもあるクゼナを含めて今後の計画を改めて考える。

 第一優先はクゼナの治療である。
 薬で進行を抑えているとはいってもジワジワと石化病は全身を蝕み、確実に進行している。

 広がり始めてしまうと進行が早いのもこの病気の特徴でもある。
 もう足一本ほとんど石化してしまっているのでなるべく早く治療を開始することが望ましい。

「ではあとはイェミェンの入手と調薬のための設備が必要ですな」

 ヴィッツも内心驚きながらも極めて冷静に状況を見ていた。

「……話は分かったけどどうして2人は私を助けようとしてくれるの? ラストは分かるんだけどさ」

 クゼナが当然の疑問を口にする。
 リュードとルフォンはクゼナとは面識もなく接点もない。

 助ける理由なんかない。
 リュードが治療薬も作れるし針治療も出来るなんて都合が良すぎるし、怪しくすら思えてくる。

「俺たちはラストの友達だからな」

 そんなクゼナの心のうちに生まれた疑念にあっけらかんとして答えるリュード。
 友達だから助ける。

 当然なのだけど当然ではない理論。

「友達? ふぅん?」

「わ、私にだって友達ぐらいいるし!」

「泣きながら助けてって言われたら助けないわけにはいかないからな」

「泣きながら? ふーーーーん?」

 みるみるラストの顔が赤くなっていく。

「な、泣いては……いたけど」

「……ふふっ、いい友達ができたんだね」

 クゼナは自分の醜い疑念の心を反省した。
 リュードたちがラストを利用するためにクゼナの病気を利用しようとしているのではないかと疑った。

 しかしリュードたちは純粋に友人としてラストを助けようとしてくれている。
 利用しようとしているとしても、治療はしようとしてくれている。

「へへへっ、クゼナちゃんとも友達になろうよ!」

 いい友達と褒められてルフォンが笑顔になる。
 ルフォンの良い人レーダーにクゼナも引っかかったみたいだ。

 ルフォンはあまり相手の強さというものに興味がなく、自分にとって良い人か悪い人かについて敏感で、そちらの方が大事なのである。
 クゼナはルフォンにとっても良い人で友達になってもいいと考えた。

「わ、私も?」

「うん、友達なら助けても不思議じゃないでしょ?」

 真正面切って友達になろうなんて言われたことなんて子供の時でもなかった。
 いきなりのルフォンの提案にクゼナが動揺する。
 
「え、えっと、じゃあ……よろしくお願いします」

 こんな風に人と友達になったことはない。
 口で言うだけのことなのにすごく照れくさくて頬が熱くなる。

「よろしくね!」

 損得とかそんなことルフォンには関係ない。
 友達になりたければ友達になり、友達が困っていれば助けるのだ。

「ルフォン……ありがとう」

「お礼は全部終わった後で!」

「それじゃあ友達を助けるとしますか」

 塞ぎ込んでいたクゼナが明るくなった。
 使用人たちもどこか希望を失って暗くなっていたクゼナを心配していたが、再び笑顔を見せるようになってラストに感謝をしていた。