「お姉ちゃんは……怒ってないの?」

 神獣の子モノランとルオランとミオランの関係は歳の離れた兄妹である。
 子などというからリュードはルオランとミオランがモノランの子供だと勘違いしていた。

 リュードたちが去って、頭を冷やしたルオランが山の頂上の縁に立つモノランの横にやってきた。
 ルオランが聞いているのはリュードたちへの態度のことではなく、殺されたメノランという神獣の子について怒りを抱えていないかということだった。

「怒っています。今も近くの町に降りて人間を皆殺しにしてやりたく思います。プジャンという男を探し出して殺してくれというまでズタズタにしてやりたい気持ちがあります」

「どうしてそうしないの?」

 ルオランはまだ幼かった。
 ペラフィランの子でありモノランたちの親になる神獣の子はルオランとミオランを産んで亡くなってしまった。

 そこからはモノランが三匹の神獣の子を親代わりに育てていた。
 当然メノランが殺されたことに大きな怒りを抱えていて、ルオランはなぜモノランが怒っているのに何もしないのか疑問だった。

「神の思し召しがあったからです」

 モノランは天を見上げた。
 思わぬ出会いがあった。

 雷の神様の加護を受けたリュードがいた。

「あの人がいなければ今頃そこら中血の海だったことでしょう」

 ペラフィランが神獣としての格を失ってから神とのつながりは途絶えていた。
 もはや神に見放されてただの魔物として生きるしかなかった。

 しかしペラフィランは神獣としての心を忘れずたとえ神獣としての格がなくても心まで魔物になってはいけないとモノランにも言っていた。
 怒りに飲まれたモノランだったのだが雷の神様の力を感じて正気を取り戻した。

 復讐のために全てを破壊する魔物になりかけていたところを雷の神様の加護を持つリュードが止めてくれたということにモノランは意味を感じずにいられない。
 目には見えず、存在は感じなくとも雷の神様は見ているのだと思ったのだ。

 そして怒りをうまく飲み込めば進展の復活や雷の魔法の力を布教できるチャンスまで転がり込んできた。
 死んだメノランは生き返らない。

 だけどメノランが己の身を犠牲にしてまで雷の神獣としての道を開いてくれたように感じられた。

「心が痛いです……でもいくら暴れてもあの子は帰ってこないの……」

 モノランは泣きそうな目をしているルオランの頭を撫でるように顔を擦り付けた。
 むしろ怒りに任せて復讐などしていたら人間たちに追い詰められてモノランたちは凄惨な最後を迎えていたことだろう。

 雷の神獣ではなく惨たらしい悪魔のような魔物と言われていたかもしれない。

「忘れちゃダメ……私たちは神獣なの。人ともあり、人と共に暮らすのが本来の姿なのよ」

「でも……」

「怒りは分かるわ。忘れろとは言わない。きっとリュードが復讐の時をくれる。きっと……メノランの仇は取るから」

「おっきくなったら……僕がお姉ちゃんたちを守るんだ」

「ありがとうルオラン。あなたは優しい子ね」

 モノランの逆隣にミオランが座った。
 山の頂上に座る三匹の魔物。

 彼女たちが魔物となるか、神獣となるのかは奇しくもリュードの双肩にかかっているのである。