モノランとの話で何となく重たい空気になったままプジャンとクゼナがいる都市の手前まで来ていた。
「リュード、ルフォン、話があるの」
モノランのいた山を降りてからずっと思い詰めた顔をしていたラストが宿の部屋で重たく口を開いた。
何かを考えていることは丸わかりだった。
ラストが何を判断するにしてもどう行動していくかの決定権はリュードとルフォンにはない。
ラストがどう考えるのかを待つしかなく、あえてそこに触れることもなかった。
ルフォンとラストが泊まる部屋に集められたので何かを決めたのだろうと分かっていた。
「私考えたんだけど、2人とはここでお別れしようと思うの」
「えっ、なんで!」
ラストの考え抜いた末の決断にルフォンが驚きの声を上げた。
ルフォンは意外そうだけどリュードはそんな予感がしていたので驚かなかった。
ルフォンは当然助けが必要で助力を求めてくるだろうと思っていたのだ。
しかし実際はその逆で、ラストはルフォンが驚くような決断をした。
その考えの方も分からないではないとリュードは目を細める。
ルフォンは助け合いが当然だし求められたら助けることにも何らためらいもない。
けれどラストはそうではない。
周りは敵ばかりで生き馬の目を抜くような環境で生きてきた。
人に頼ることもできずにきたので頼ることに考えもいかないのである。
頼ることにも不慣れであり、頼ることができる人が周りにいたとしても頼り方も分からない。
また、頼ることで迷惑になってしまうと考えてしまう。
「リュードも、ルフォンも、良い人だから……」
だからこそこれ以上迷惑はかけられないなんてラストは考えてしまった。
それがラストの出した結論なのだ。
「私は……大人の試練に失敗したとしてもクゼナを助けたい。だから私はクゼナを助けてモノランのところに戻るつもり」
クゼナさえ助ければモノランがプジャンを倒してくれる。
ただクゼナを連れてモノランのところまで戻ると大人の試練は時間切れになってしまう可能性が大きく、プジャンに気付かれれば狙われてしまうだろう。
モノランを呼ぶアイテムはリュードが持っているけど自分のわがままでは使えない。
2人は大人の試練のために来てくれているのだしここから先は巻き込む必要もないと考えたのである。
「分かった」
「リューちゃん!?」
悩ましそうでちょっとだけ泣き出しそうな悲しい顔をしてお別れを切り出すラストもだけど、あっさりと承諾してしまうリュードもリュードで驚いた。
いつものリュードならラストを見捨てるはずはないのにとルフォンは思った。
「ただし、いくつか聞かせてほしい」
「なに?」
「クゼナを助け出す具体的な作戦は?」
「えっ?」
「まさか正面切って逃げようって手でも引いて出てこれるとでも思ってるのか?」
クゼナは人質に取られているという。
病気の身の上である上に人質ということは囚われているか、監視でもつけられているに違いない。
おいそれと連れ出して逃げることなんて出来やしない。
「監視されていたりしたらどうする。お前自身だってプジャンからすると注目する相手なんだから監視されるかもしれないじゃないか。
それにクゼナは病気、しかも石化病なんだろ? 走らせて大丈夫なのか。走れるのか。病気の進行具合もどうなんだ。
仮に連れ出せたとしてそのあとどうする。モノランのところまでどうやっていくつもりなんだ? 追いかけてくるだろうし、クゼナやお前も危険に晒されることになるんだぞ」
「え……あう、それは…………おいおい……」
「薬の準備はどうする。薬がなきゃ助け出しても無意味になる。進行を遅らせる薬はプジャンのところから逃げ出したらなくなるんだからすぐに治療薬を用意しなきゃいけないぞ。
薬の材料、それに針打ちできる医者も探さなきゃいけないし材料のイェミェンは貴重な薬草だ。助け出してからじゃ間に合わないかもしれない」
「それも……探して……」
「それにお前はどうなる。大人の試練に失敗して、大領主の座を失ってモノランとの約束を果たせなくなったら。この先お前の兄姉から身を守れるのか? もっと先のことまで考えているのか?」
「うぅ……うっ……そんなの、そんなの分かんないよ!」
答えられるはずもないと分かっていながらリュードはラストに厳しい言葉をぶつけた。
やはり何一つ答えられず、ラストは泣き出してしまう。
ボロボロと泣き出すラストにルフォンは動揺するがリュードは態度を崩さない。
「どうしたらいいか分かんないよ……でもやるしかないんだよ」
「誰かに相談したか?」
「じいには言ったけど私の好きにしたらいいって」
「他に相談したり、助けてくれる人は?」
「いないよ、そんなの。こんなところじゃお姉ちゃんもいないし、大領主であるプジャン兄さんに逆らってまで助けてくれる人なんていないよ」
「じゃあ!」
リュードがラストの肩を掴む。
痛くないようには気をつけているけど思わず力は入ってしまう。
「どうして俺たちには相談しないんだ?」
ラストの涙で濡れた目が大きく見開かれる。
「どうして俺たちに助けてほしいと言わない?」
いつもと違うわけじゃなかった。
ただちょっと寂しくて怒っていたんだとルフォンは思った。
リュードは口で分かったと言いながらも分かっていない。
なぜラストが1人で背負おうとしているのか理解できずに少し怒っていた。
プジャンの悪辣なやり方にもそうではあるのだが、ラストに対して怒っていた。
短い間でも共に旅をしてきた。
一緒に戦って、一緒に危機を乗り越え、秘密を打ち明けあって、関係を築いてきた。
迷惑をかけられないというのは分かるけど、相談も無しにお別れです、あとは私1人で頑張りますではリュードも納得がいかない。
「だって……でも……」
友達だから迷惑をかけたくない。
友達だから危ない目に会わせたくない。
「俺たちは友達だろ? 少しぐらいは、頼ってくれよ」
友達だから助けたい。
友達だから見捨てない。
リュードはこんな青春ドラマのセリフみたいな言葉しか出てこない自分が恨めしい。
もっとクールでカッコよく説得する自分を想像していたのに、カッとなって結局思いのままに恐ろしく弱い語彙力でしかものを伝えられない。
大人な言い回しはまだリュードには出来なかった。
怒りと心配と恥ずかしさ、いろんな感情が混じりあって真面目な顔になっているリュードをラストはジッと見え返した。
「どうしたらいいか分かんないの」
「うん」
「クゼナを助けたいけど私1人じゃ多分ダメで」
「うん」
またラストの目から涙が溢れ出す。
「うっ……だからお願い……助けて……」
明るく振る舞ったりちょっと抜けたように見せているラストも年相応の女の子で、頑張って背伸びをしても限界はある。
周りに潰されないように装ってる。
だからこそ己の限界を知っていて、臆病になって一歩を踏み出せなかった。
「もちろん助けるさ。相談にも乗るし、ラストの頼みならクゼナを助け出す手伝いもするよ」
「……リュードォォォォ!」
ちょっとばかり可愛くない声を出してラストがリュードにしがみついて号泣する。
ラストはリュードの胸に顔を押し付けてただただ泣きじゃくった。
リュードはそれを優しく受け止めて、ルフォンはラストの背中をさすってあげた。
怒って拗ねて変なやり方したけど助けてあげたくて、結局は助けてあげることになった。
ルフォンはリュードと目を合わせて優しく笑った。
やっぱリュードはリュードだ。
優しくて、頼もしい人である。
「リュード、ルフォン、話があるの」
モノランのいた山を降りてからずっと思い詰めた顔をしていたラストが宿の部屋で重たく口を開いた。
何かを考えていることは丸わかりだった。
ラストが何を判断するにしてもどう行動していくかの決定権はリュードとルフォンにはない。
ラストがどう考えるのかを待つしかなく、あえてそこに触れることもなかった。
ルフォンとラストが泊まる部屋に集められたので何かを決めたのだろうと分かっていた。
「私考えたんだけど、2人とはここでお別れしようと思うの」
「えっ、なんで!」
ラストの考え抜いた末の決断にルフォンが驚きの声を上げた。
ルフォンは意外そうだけどリュードはそんな予感がしていたので驚かなかった。
ルフォンは当然助けが必要で助力を求めてくるだろうと思っていたのだ。
しかし実際はその逆で、ラストはルフォンが驚くような決断をした。
その考えの方も分からないではないとリュードは目を細める。
ルフォンは助け合いが当然だし求められたら助けることにも何らためらいもない。
けれどラストはそうではない。
周りは敵ばかりで生き馬の目を抜くような環境で生きてきた。
人に頼ることもできずにきたので頼ることに考えもいかないのである。
頼ることにも不慣れであり、頼ることができる人が周りにいたとしても頼り方も分からない。
また、頼ることで迷惑になってしまうと考えてしまう。
「リュードも、ルフォンも、良い人だから……」
だからこそこれ以上迷惑はかけられないなんてラストは考えてしまった。
それがラストの出した結論なのだ。
「私は……大人の試練に失敗したとしてもクゼナを助けたい。だから私はクゼナを助けてモノランのところに戻るつもり」
クゼナさえ助ければモノランがプジャンを倒してくれる。
ただクゼナを連れてモノランのところまで戻ると大人の試練は時間切れになってしまう可能性が大きく、プジャンに気付かれれば狙われてしまうだろう。
モノランを呼ぶアイテムはリュードが持っているけど自分のわがままでは使えない。
2人は大人の試練のために来てくれているのだしここから先は巻き込む必要もないと考えたのである。
「分かった」
「リューちゃん!?」
悩ましそうでちょっとだけ泣き出しそうな悲しい顔をしてお別れを切り出すラストもだけど、あっさりと承諾してしまうリュードもリュードで驚いた。
いつものリュードならラストを見捨てるはずはないのにとルフォンは思った。
「ただし、いくつか聞かせてほしい」
「なに?」
「クゼナを助け出す具体的な作戦は?」
「えっ?」
「まさか正面切って逃げようって手でも引いて出てこれるとでも思ってるのか?」
クゼナは人質に取られているという。
病気の身の上である上に人質ということは囚われているか、監視でもつけられているに違いない。
おいそれと連れ出して逃げることなんて出来やしない。
「監視されていたりしたらどうする。お前自身だってプジャンからすると注目する相手なんだから監視されるかもしれないじゃないか。
それにクゼナは病気、しかも石化病なんだろ? 走らせて大丈夫なのか。走れるのか。病気の進行具合もどうなんだ。
仮に連れ出せたとしてそのあとどうする。モノランのところまでどうやっていくつもりなんだ? 追いかけてくるだろうし、クゼナやお前も危険に晒されることになるんだぞ」
「え……あう、それは…………おいおい……」
「薬の準備はどうする。薬がなきゃ助け出しても無意味になる。進行を遅らせる薬はプジャンのところから逃げ出したらなくなるんだからすぐに治療薬を用意しなきゃいけないぞ。
薬の材料、それに針打ちできる医者も探さなきゃいけないし材料のイェミェンは貴重な薬草だ。助け出してからじゃ間に合わないかもしれない」
「それも……探して……」
「それにお前はどうなる。大人の試練に失敗して、大領主の座を失ってモノランとの約束を果たせなくなったら。この先お前の兄姉から身を守れるのか? もっと先のことまで考えているのか?」
「うぅ……うっ……そんなの、そんなの分かんないよ!」
答えられるはずもないと分かっていながらリュードはラストに厳しい言葉をぶつけた。
やはり何一つ答えられず、ラストは泣き出してしまう。
ボロボロと泣き出すラストにルフォンは動揺するがリュードは態度を崩さない。
「どうしたらいいか分かんないよ……でもやるしかないんだよ」
「誰かに相談したか?」
「じいには言ったけど私の好きにしたらいいって」
「他に相談したり、助けてくれる人は?」
「いないよ、そんなの。こんなところじゃお姉ちゃんもいないし、大領主であるプジャン兄さんに逆らってまで助けてくれる人なんていないよ」
「じゃあ!」
リュードがラストの肩を掴む。
痛くないようには気をつけているけど思わず力は入ってしまう。
「どうして俺たちには相談しないんだ?」
ラストの涙で濡れた目が大きく見開かれる。
「どうして俺たちに助けてほしいと言わない?」
いつもと違うわけじゃなかった。
ただちょっと寂しくて怒っていたんだとルフォンは思った。
リュードは口で分かったと言いながらも分かっていない。
なぜラストが1人で背負おうとしているのか理解できずに少し怒っていた。
プジャンの悪辣なやり方にもそうではあるのだが、ラストに対して怒っていた。
短い間でも共に旅をしてきた。
一緒に戦って、一緒に危機を乗り越え、秘密を打ち明けあって、関係を築いてきた。
迷惑をかけられないというのは分かるけど、相談も無しにお別れです、あとは私1人で頑張りますではリュードも納得がいかない。
「だって……でも……」
友達だから迷惑をかけたくない。
友達だから危ない目に会わせたくない。
「俺たちは友達だろ? 少しぐらいは、頼ってくれよ」
友達だから助けたい。
友達だから見捨てない。
リュードはこんな青春ドラマのセリフみたいな言葉しか出てこない自分が恨めしい。
もっとクールでカッコよく説得する自分を想像していたのに、カッとなって結局思いのままに恐ろしく弱い語彙力でしかものを伝えられない。
大人な言い回しはまだリュードには出来なかった。
怒りと心配と恥ずかしさ、いろんな感情が混じりあって真面目な顔になっているリュードをラストはジッと見え返した。
「どうしたらいいか分かんないの」
「うん」
「クゼナを助けたいけど私1人じゃ多分ダメで」
「うん」
またラストの目から涙が溢れ出す。
「うっ……だからお願い……助けて……」
明るく振る舞ったりちょっと抜けたように見せているラストも年相応の女の子で、頑張って背伸びをしても限界はある。
周りに潰されないように装ってる。
だからこそ己の限界を知っていて、臆病になって一歩を踏み出せなかった。
「もちろん助けるさ。相談にも乗るし、ラストの頼みならクゼナを助け出す手伝いもするよ」
「……リュードォォォォ!」
ちょっとばかり可愛くない声を出してラストがリュードにしがみついて号泣する。
ラストはリュードの胸に顔を押し付けてただただ泣きじゃくった。
リュードはそれを優しく受け止めて、ルフォンはラストの背中をさすってあげた。
怒って拗ねて変なやり方したけど助けてあげたくて、結局は助けてあげることになった。
ルフォンはリュードと目を合わせて優しく笑った。
やっぱリュードはリュードだ。
優しくて、頼もしい人である。