「どうして人がいるの。こいつらが……こいつらがお姉ちゃんを殺したんだ! こんな奴らやっつけなきゃ……」

「ルオラン!」

 2匹のうち体の小さい1匹が体をびくりと跳ねさせる。

「どうして……」

「人と言っても色々な者がいます。一括りに悪者でありません。この人たちはメノランを殺した人とは違うのです」

「そんなの……そんなの知らない!」

「ルオラン……待ちなさい!」

 ルオランがどこかに走り去っていく。
 どれぐらいの年を生きた子なのか分からないがまだ子供なのだろうことはわかる。

 そんな子供に姉の死を受け入れることとあまり会ったこともない人の分別など出来るはずもない。

「申し訳ありません、リュード」

「あっ、いや、仕方ないよ……」

 部外者のリュードですら今の会話には心が痛む。
 当人、いや当獣の受けたショックは計り知れないものがある。

「こちらに」

 平たい山頂の端気は土が盛り上がった小山が3つあった。

「ミオラン、穴を掘るの手伝ってくれる?」

「うん……」
 
 モノランとミオランと呼ばれたもう1匹の神獣の子で3つの山の横に穴を掘る。
 前脚を使って土をかき出していき、みるみる間に穴が掘られていく。

「ここにお願いします」

 土に塗れたモノランはそれなりの深さまで掘られた穴を見た。
 リュードは穴に入るとそっとメノランの遺体を穴の底に横たわらせる。

「ミオラン、ダメよ」

「でも、お別れを……」

「ダメ、ここからでも出来るでしょ?」

 穴の中を覗き込もうとしたミオランをモノランが止める。
 見れば悲しくなる無惨な遺体がそこにはある。
 
 最後見る姿がそれではメノランが可哀想だと止めたのだ。
 何かを察してミオランが大人しく下がる。

 リュードが穴から出てきてモノランとミオランで土を埋め戻す。
 けれど埋め戻した後に出来た小山の大きさは横の3つのものよりもずっと小さかった。
 
 横のものが成体の神獣のものだとするとモノランぐらいの大きさだろうから小山になるほどのサイズがあったのだろう。
 対してメノランのお墓はメノランがまだまだ小さかったためにほとんど土が盛り上がることがなかった。

「ありがとうございます」

「……ごめんな」

「あなた方のせいではありませんよ」

 責任はプジャンにあると分かっている。
 それでも重たい罪悪感は心に残る。

「もう朝ですね」

 赤らんでいた空はすっかり明けていた。
 空はすみ、風は心地よい。

 気分が良く感じられるはずの朝。
 なのにどこか気分は晴れやかとはいかない。

「これをお持ちください」

「これは?」

「私の毛です」

「いや、見れば分かるけどさ」

 一房の毛が長めの毛で束ねてある。
 触ってみるとフワフワとして気持ちがいい。

「これには私の魔力が込められています。私を呼び出したい時にはこれを燃やしてください。走って駆けつけますので」

「燃やす……」

 もったいない。
 リュードは普通に毛が欲しかったので言ってみるともう一房魔力の込められていない毛をもらった。

「プジャンをころ……プジャンと話し合いをしていいタイミングになったら呼んでください」

 リュードたちは山頂から出発した。
 本来は山の腹をグルリと回っていかなきゃいけないのだけれど山頂まで来れたのでそうする必要がなくなった。

 直線的に山を降りて反対側に行けば山の腹を回っていくよりも早く進むことができる。
 渓谷を通るルートとほとんど変わらない時間でリュードたちは進行することができたのであった。