「おりゃあ!」

 リュードが剣を通してハイトロルの体に電撃を流す。
 加護のおかげなのか使えば使うほど雷属性の魔法は安定して使いやすくなっていく。

 クラーケンのように弱点じゃなくても生物相手なら大体電撃は通じる。
 ハイトロルの体がビクビクと電気で跳ねて、わずかに焦げ臭いニオイがする。

 痺れて焼けるそばから再生が始まり死ぬまでには至らない。
 けれども痺れと再生のためにハイトロルの動きが完全に止まった。

「ナイス!」

 サキュルラストが矢から手を離す。
 矢は真っ直ぐにハイトロルの頭に向かって飛んでいき、ブスリと頭に深く突き刺さる。

 次の瞬間魔力が弾けて矢が大きく爆発する。
 サキュルラストの魔力込められた矢ごと消滅する威力で爆発してハイトロルの頭を吹き飛ばす。

「うえぇ……」

 剣でハイトロルがうごかないように押さえていたリュードは爆発したハイトロルの頭の破片や血を浴びてしまった。
 すぐにハイトロルの死体は魔力の粒子となって消えていったのだけれど、頬に感じた肉片のベチャッとした感触までは消えてくれなかった。

 無い肉片を拭うようにしているとサキュルラストが嬉しそうにリュードに駆け寄ってくる。
 上げた手を差し出してくるのでリュードも同じようにして手を打ち鳴らす。

「やるじゃん、シュ……リュード!」

「おう、サキュルラストも……」

「ラスト! その、ラストって呼んでくれると嬉しいな……」

 ラストは顔を赤くした。
 レストもそうだったのだがサキュルというのはラストたち一族の女性の名前に絶対につく枕詞のようなもので、サキュルの後の部分が各々違っている。

 そして親しい人はレストやラストというふうにサキュルの部分を飛ばして呼ぶ。
 リュードが本来シューナリュードだけどリュードと愛称で呼ばれるようなものである。

 ラストはずっとリュードのことをリュードと呼びたかったし、ラストと呼んでほしかった。
 試練をクリアした今がチャンスだと思った。

「ん、分かった。ラストも凄かったじゃないか。どうしてその力をここまで隠していたんだ?」

 リュードもラストをラストと呼ぶことをさらりと受け入れた。
 サキュルラストと呼ぶのは長いと思っていた。

「すごかった?」

「ああ、すごかったよ」

 ハイトロルの死体はないので状態を確認することもできないけれど一発でハイトロルは酷いことになった。
 それなのにラストは大きく消耗した様子もない。
 
 これまで使わなくても確かに余裕があったけれどもっと早く楽に進むことができるのだから使ってもいいように思えた。

「んと、誰に見られるか分からないからね、あの行政官だって真面目そうな顔をして誰の派閥に属しているか分からない。私は今のところ魔力があっても練習嫌いでまだまだ力を上手く扱えないか弱い少女だから」

 能ある鷹は爪を隠すという。
 ラストは先祖返りの魔力や身体能力だけでなくそれをちゃんと活かして扱えるだけの才能もあった。

 しかし兄姉に警戒されている今戦いの才能まで見せてしまうと牽制はより激しくなる。
 ラストは誰かの目がありそうなところでは出来る限り力を見せないようにしていた。

 今回はボス部屋に2人きりなので他の人の目は確実にない。
 神様の神託もあるしこんな風に助けてくれる人が敵なわけもないのでもうリュードに信頼を置いて、力を見せてもいい相手だとラストはリュードを認めた。
 
 ついでに力を見せておけば今後いざという時にどこまで出来るのかの基準にもなる。

「おっと、戦利品もドロップしているな」

「う……いらないからリュードにあげるよ」

「……じゃあ、もらっておくよ」

 戦利品として落ちていたのはハイトロルの肝だった。
 色々な薬の材料にもなるし高額で取引されることもある代物である。

「しょうがないのかもしれないけど……生か」

 落ちている肝はそのまんま肝である。
 生の状態で落ちている。

 血がついているとかではなく綺麗な肝なのだけれど要するに肝ってことは魔物の内臓なのである。
 いらないのではないけど触りたくない。

 ラストは放った矢の回収に行って肝から逃げてしまったのでリュードが拾うしかない。

「うひぃ……」

 触ると肝は柔らかく、弾力があって、ぬちょっとしている。
 せっかくの綺麗な状態の肝である。

 雑に扱うわけにもいかず優しく持ち上げるために肝と接触する時間が自然と長くなり、その独特の感触にゾワゾワと鳥肌が立つ。
 マジックボックスの袋に肝を放り込んで、肝を掴んでいた手を空中に彷徨わせる。

 肝の感触が手に残っている。
 なんだか1番これが疲れる気がした。

「だいじょぶ?」

「うん……ナマモノのドロップは辛いな」

 自分で魔物を解体している時には何も思わないのに目の前にポンと肝だけ置かれると嫌な感じがするのはなぜなのか。
 特に臭うわけでもないのにリュードは肝を触った手を少しだけ体から離してボス部屋から出た。

「……もう討伐なされたのですか」

 入った時と全く同じ位置、同じ姿勢で待っていたコルトンはジロリとリュードとラストに視線を向けた。
 驚いたようなセリフだけど表情には変わりがない。

 ボス部屋の扉は1度完全に閉じた。
 開かないことは確認したし、自分の知らない裏技でボスを倒さずに出てくる方法なんてあるはずもない。

 つまりはリュードたちが思いの外短時間でボスを倒したことになる。

「へっへーん、私強いからね」

 ピッとラストがコルトンに向けてピースサインをする。
 実際のところ本当にラストが強いのだけれど、そんな軽い態度を取るラストにコルトンはリュードが倒したものだろうと考えた。

 わざとそうしていることはリュードにも分かっている。
 だからあえて何も言わずにラストが印象付けようとしているのを黙って見届けた。

「これで1つ目の大人の試練は成功となります。お次の場所はこちらに書かれています」

 コルトンは懐から2と書かれた黒い封筒を取り出してラストに渡した。
 ラストが中を開けると簡易的な地図と次の大人の試練の場所が書かれた紙が入っていた。

「次はプジャンお兄様のところね……」

 大人の試練の場所を確認してラストがため息をついた。
 このまま自分の治める大領地内で全てを終わらせることができれば楽だったのにそう甘くはない。

「とりあえずこんなところさっさと出ようか、ラスト。……ラスト?」

「あっ、うん。早く出よっか」

(リュードって呼んじゃったし、ラストって呼んでもらえた!)

 改めてラストと呼んでもらえてラストは嬉しかった。
 一つ関係が近づいたように感じられる。

「嬉しそうだな」

 大人の試練を1つ乗り越えられて喜んでいる。
 ラストの態度がリュードにはそう見えていたのであった。