「ようし、今日も頑張るぞ!」
エミナはやる気に満ち溢れていた。
リュードとルフォンと別れてからエミナたちは本格的に活動していた。
少しばかり悩んだけれどどうせしばらく居着くつもりなら拠点も持った方がいいと思ってお金を出し合って安い家を買った。
アリアセンが裏で手を回してくれて安く良い家を買うことができたと知ったのはだいぶ後のことだった。
エミナたちはそれぞれ多少の家事は出来たので3人での共同生活にも問題は少なかった。
真面目で明るい3人組なので周りの人ともすぐに打ち解けて近所に応援される冒険者になりつつある。
「おっ、来たね。あんたがエミナだね?」
「は、はい。ええと……エリザ、さん?」
「私のこと知ってくれているのかい?」
「あっ、はい。スナハマバトルを見ていたので」
冒険者ギルドに行くとエミナは声をかけられた。
エミナに声をかけたのはスナハマバトルでリュードたちと熱戦を繰り広げたエリザであった。
エミナはスナハマバトルでリュードたちを応援に行っていたのでエリザの顔をもちろん知っていた。
「あはは、嬉しいね」
「一体何の御用でしょうか?」
リュードとエリザ、リュードとエミナは接点があってもエミナとエリザに接点はない。
エミナが一方的にエリザを知っているだけでエリザはエミナの顔も名前も知らないはずだと首を傾げる。
声をかけられるような理由は見当たらない。
「そんな怯えなくてもいいさ。私は実は普段は冒険者ギルドで教官をしていてね」
「教官ですか」
「そ、冒険者の生存率の向上を目的としてギルドに雇われて冒険者の面倒を見てるのさ。これでも私と旦那はゴールド−までいった冒険者だから腕はそれなりにあるんだ」
「そうなんですか」
「それで声をかけたのは頼まれてね」
「頼まれ……?」
「私たちの仕事を聞いたある人からあんたたちの面倒見てやってくれってね」
「あっ……」
エリザがエミナにウインクしてみせる。
誰をとは聞かない。
エリザにエミナのことを頼む人なんて心当たりは1人しかいない。
「普段は気に入ったやつしか私は見ないんだけど、頼みってこともある。けどもうあんたたちの噂は聞いてるし悪くなさそうだね」
リュードはたまたまエリザたちが普段どんな仕事をしているのかを耳にした。
そこでエミナたちがこのデタルトスで活動するなら面倒を見てほしいとお礼に行った時に頼んでいたのだ。
「ええと、私たちは……」
「ふふ、気持ちは分かるよ」
せっかくだけど断ろう。
自分たちでも出来るしわざわざエリザに負担をかけることもない。
けれどエリザはそんなエミナの考えを見透かしていた。
教官にお世話になりたがる冒険者は少ない。
誰しもが自分で出来ると思っているし気恥ずかしさもあって人にお世話になることをあまり好まない。
有望そうな冒険者に声をかけてもすぐさまお願いしますと言ってくる冒険者があまりいないことはエリザは分かっていた。
「いいかい? 良い冒険者ってのは他人に頼ることが出来る人で何でも出来る人じゃないのさ」
「は、はぁ」
「最初から何でも出来るヤツなんていやしないのさ。でもどんなことでも出来るような、そんな風に見える奴ってのはいるのさ。じゃあどんな奴が何でも出来るように見えると思う?」
「ええと、それは……」
「はい、自分で頑張る人!」
ヤノチが手を上げて答える。
「うん、悪くない答えだよ。でも私が思う何でも出来る人ってのはね、他人に頼れる人なんだよ。自分に何が出来て何が出来ないのかを分かってる。だから他人に頼って出来ないこと理解したり、協力したりしてやっちまう」
何が言いたいのかエミナには分からない。
「たぶんあんたたちにはリュードが何でも出来るような人に見えていないかい?」
「……それは」
確かにそうだ。
ヤノチとダカンはともかくエミナはリュードが万能で何でも出来る人で、追いつくためには自分も何でも出来るようにならなきゃいけないと思っている。
「リュードも何でも出来る奴じゃないさ。まあ、何でも出来るぐらいには凄い奴だったけどね。でもそんなリュードでも出来ないことはある。それにきっと昔からそんな風になんでも出来た奴じゃなかったはずさ」
「何が言いたいんですかぁ?」
痺れを切らしたヤノチがストレートに聞く。
「ははっ、歳をとると回りくどくていけないね。要するにだ、今は出来るやつでも自分1人で何とかしてきたわけじゃなくて困ったら人に頼って、人に教えてもらった経験があるはずさ。使えるものは何でも使って学びを得ることが大切なのさ」
「使えるものは何でも使う……」
「そう、リュードも旅して今も学んでるんだろ? 自分たちだけで学んでいて追いつけると思うのかい?」
ウッとエミナは痛いところをつかれたような顔をした。
今この時にもリュードは強くなっていると思う。
追いつくにはもっともっと努力しなきゃいけない。
「あんたたちには今教えてくれるっていうゴールド−の教官がいる。どうだい、それでもまだ自分でやるって、それで追いつけるって言えるかい? それとも他人にちゃんと頼ってみるかい?」
「なんだかずるいです……」
そんな風に言われたら断れないじゃないか。
「あっはっはっ、小難しくて回りくどくて、なんだかそれっぽいだろ? 理想の冒険者ってのは冒険者の数ほどあっていいし、何も私が言ったような奴にならなくてもいいのさ。でもこんな言い方でグラつくようならまだまだだね」
「むむ……」
「何にしてもだよ、誰かに学ぶことは悪いことじゃないのさ」
「2人はどう思う?」
「私はお願いしてもいいかな。まだまだ分かんないこと多いし、誰か教えてくれるなら願ってもないことだと思う」
「俺ももっと役立てるようになりたいから賛成かな」
「……エリザさん、私たちの教官になってください!」
エミナはエリザに頭を下げた。
素直でいい子、教えれば教えただけ学んでくれるはずだとエリザは直感した。
どこまでいるかは分からないけれど、少なくともゴールド−まで行けるぐらいには叩き込んでやろうとエリザは思ったのであった。
気に入った人しか見ないと言われる人気教官の1人であるエリザはこの日からエミナとヤノチとダカンの3人に冒険者としての全てを教え始めた。
エミナはやる気に満ち溢れていた。
リュードとルフォンと別れてからエミナたちは本格的に活動していた。
少しばかり悩んだけれどどうせしばらく居着くつもりなら拠点も持った方がいいと思ってお金を出し合って安い家を買った。
アリアセンが裏で手を回してくれて安く良い家を買うことができたと知ったのはだいぶ後のことだった。
エミナたちはそれぞれ多少の家事は出来たので3人での共同生活にも問題は少なかった。
真面目で明るい3人組なので周りの人ともすぐに打ち解けて近所に応援される冒険者になりつつある。
「おっ、来たね。あんたがエミナだね?」
「は、はい。ええと……エリザ、さん?」
「私のこと知ってくれているのかい?」
「あっ、はい。スナハマバトルを見ていたので」
冒険者ギルドに行くとエミナは声をかけられた。
エミナに声をかけたのはスナハマバトルでリュードたちと熱戦を繰り広げたエリザであった。
エミナはスナハマバトルでリュードたちを応援に行っていたのでエリザの顔をもちろん知っていた。
「あはは、嬉しいね」
「一体何の御用でしょうか?」
リュードとエリザ、リュードとエミナは接点があってもエミナとエリザに接点はない。
エミナが一方的にエリザを知っているだけでエリザはエミナの顔も名前も知らないはずだと首を傾げる。
声をかけられるような理由は見当たらない。
「そんな怯えなくてもいいさ。私は実は普段は冒険者ギルドで教官をしていてね」
「教官ですか」
「そ、冒険者の生存率の向上を目的としてギルドに雇われて冒険者の面倒を見てるのさ。これでも私と旦那はゴールド−までいった冒険者だから腕はそれなりにあるんだ」
「そうなんですか」
「それで声をかけたのは頼まれてね」
「頼まれ……?」
「私たちの仕事を聞いたある人からあんたたちの面倒見てやってくれってね」
「あっ……」
エリザがエミナにウインクしてみせる。
誰をとは聞かない。
エリザにエミナのことを頼む人なんて心当たりは1人しかいない。
「普段は気に入ったやつしか私は見ないんだけど、頼みってこともある。けどもうあんたたちの噂は聞いてるし悪くなさそうだね」
リュードはたまたまエリザたちが普段どんな仕事をしているのかを耳にした。
そこでエミナたちがこのデタルトスで活動するなら面倒を見てほしいとお礼に行った時に頼んでいたのだ。
「ええと、私たちは……」
「ふふ、気持ちは分かるよ」
せっかくだけど断ろう。
自分たちでも出来るしわざわざエリザに負担をかけることもない。
けれどエリザはそんなエミナの考えを見透かしていた。
教官にお世話になりたがる冒険者は少ない。
誰しもが自分で出来ると思っているし気恥ずかしさもあって人にお世話になることをあまり好まない。
有望そうな冒険者に声をかけてもすぐさまお願いしますと言ってくる冒険者があまりいないことはエリザは分かっていた。
「いいかい? 良い冒険者ってのは他人に頼ることが出来る人で何でも出来る人じゃないのさ」
「は、はぁ」
「最初から何でも出来るヤツなんていやしないのさ。でもどんなことでも出来るような、そんな風に見える奴ってのはいるのさ。じゃあどんな奴が何でも出来るように見えると思う?」
「ええと、それは……」
「はい、自分で頑張る人!」
ヤノチが手を上げて答える。
「うん、悪くない答えだよ。でも私が思う何でも出来る人ってのはね、他人に頼れる人なんだよ。自分に何が出来て何が出来ないのかを分かってる。だから他人に頼って出来ないこと理解したり、協力したりしてやっちまう」
何が言いたいのかエミナには分からない。
「たぶんあんたたちにはリュードが何でも出来るような人に見えていないかい?」
「……それは」
確かにそうだ。
ヤノチとダカンはともかくエミナはリュードが万能で何でも出来る人で、追いつくためには自分も何でも出来るようにならなきゃいけないと思っている。
「リュードも何でも出来る奴じゃないさ。まあ、何でも出来るぐらいには凄い奴だったけどね。でもそんなリュードでも出来ないことはある。それにきっと昔からそんな風になんでも出来た奴じゃなかったはずさ」
「何が言いたいんですかぁ?」
痺れを切らしたヤノチがストレートに聞く。
「ははっ、歳をとると回りくどくていけないね。要するにだ、今は出来るやつでも自分1人で何とかしてきたわけじゃなくて困ったら人に頼って、人に教えてもらった経験があるはずさ。使えるものは何でも使って学びを得ることが大切なのさ」
「使えるものは何でも使う……」
「そう、リュードも旅して今も学んでるんだろ? 自分たちだけで学んでいて追いつけると思うのかい?」
ウッとエミナは痛いところをつかれたような顔をした。
今この時にもリュードは強くなっていると思う。
追いつくにはもっともっと努力しなきゃいけない。
「あんたたちには今教えてくれるっていうゴールド−の教官がいる。どうだい、それでもまだ自分でやるって、それで追いつけるって言えるかい? それとも他人にちゃんと頼ってみるかい?」
「なんだかずるいです……」
そんな風に言われたら断れないじゃないか。
「あっはっはっ、小難しくて回りくどくて、なんだかそれっぽいだろ? 理想の冒険者ってのは冒険者の数ほどあっていいし、何も私が言ったような奴にならなくてもいいのさ。でもこんな言い方でグラつくようならまだまだだね」
「むむ……」
「何にしてもだよ、誰かに学ぶことは悪いことじゃないのさ」
「2人はどう思う?」
「私はお願いしてもいいかな。まだまだ分かんないこと多いし、誰か教えてくれるなら願ってもないことだと思う」
「俺ももっと役立てるようになりたいから賛成かな」
「……エリザさん、私たちの教官になってください!」
エミナはエリザに頭を下げた。
素直でいい子、教えれば教えただけ学んでくれるはずだとエリザは直感した。
どこまでいるかは分からないけれど、少なくともゴールド−まで行けるぐらいには叩き込んでやろうとエリザは思ったのであった。
気に入った人しか見ないと言われる人気教官の1人であるエリザはこの日からエミナとヤノチとダカンの3人に冒険者としての全てを教え始めた。