「お願い! ラストを助けてほしいの!」

「お願いします!」

 レストとサキュルラストが頭を下げる。

「…………少し考えさせてくれ」

 思っていたよりも複雑で込み入った事情があった。
 仕方ないのだけれど踏み入った話まで聞いてしまい、リュードは眉をひそめた。

 特に悪いことをしていないサキュルラストが命の危険に晒されてしまっているとまで聞かされて断るにも断れない。
 ただやはりリュードは今1人で動いているのではないので好き勝手になんでもやっていいのではない。

「あまり時間もないから早めに答えを出してくれると嬉しいわ。行きましょう、ラスト」

 もちろん急に引き受けてくれるとは思っていない。
 考える時間も必要だとレストがサキュルラストを連れて部屋を出ていく。
 
 最後に執事が深く礼をしてドアを閉めていった。

「はぁ〜!」

 リュードは手足を投げ出してベッドの上に横になる。
 めんどくさそうな気配は感じていた。

 知らん人にわざわざ頼むぐらいだから変なお願いなことは薄々勘づいていたのだが、想像よりも重たそうな話であった。
 話を聞いているだけで気疲れしてしまう。

「どうするの、リューちゃん?」

 ルフォンは執事に聞いた知識をメモに書き残す手を止めてベッドに寝転がるリュードを覗き込む。

「どうするったってなぁ」

 正直な感想ここまで聞いておいて断ります、さようならじゃ終われない。
 断ってさっさと国を出ればサキュルラストがどうなろうと結果を知ることもなく旅を続けられるだろう。

 今後関わることもないので上手くいったのか失敗したのか好きなように想像できる。
 ただし上手くいっただろうなんて楽天的に考えて忘れることができるとはとても思えない。

 一筋の涙を流してしまったサキュルラストの悲しそうな顔を思い出して、良心の呵責に悩まされながら過ごすことになる。
 敵対した相手には非情になれてもこんなところじゃ非情になりきれはしないのだ。

「ルフォンはどう思う?」

 サキュルラストはいきなり結婚しろなんて言ってきた相手だ。
 ルフォンもサキュルラストの結婚しろ発言やレストの愛人発言のせいで2人をやや毛嫌いしていた。

 命の危険があることはサキュルラストだけに限ったことではない。
 協力することになれば命の危険はおそらくリュードにも及んでくる。

 ないとは思うのだけれど大人の試練を乗り越えた先に何かと理由をつけて結婚を迫ってくる可能性だってある。
 ルフォンが難色を示すなら断ることだってやぶさかではない。

「私は助けてあげてほしいかな」

 ルフォンは即答した。
 思いもがけない言葉がすぐに返ってきてリュードは少し驚いた。

 助けてあげてほしい。
 それはリュードに対するルフォンの思いの1つであった。

 ルフォンにとってリュードとはヒーローでもあるのだ。
 困っている人が放っておけず、悪い人がいたら倒し、弱い者を助ける。

 リュード自身はそんな自己犠牲に満ち溢れた竜人族ではないと思っているけれどルフォンにとってはそうなのだ。
 困っている人を放っておけないのはそうだし、悪い人も大体困っている人とセットなので倒したりすることもある。

 そして困っている人はほとんど弱い人なのである。
 結果としていろんな人を助けてはきているのは間違いのないことであった。

 そんなヒーローなリュードと並び立ち、共に歩んでいく。
 そのためには困っている人がいたら放っておかず、助けられる人がいるなら助けるのである。

 リュードには優しくてヒーローでいてほしい。
 いきなりリュードと結婚するだとか愛人にしてほしいだとか第一印象は最悪だった。
 
 リュードは魅力的で強いので仕方がない面があるとはルフォンも思う。
 誰にでも優しくしちゃうリュードもリュードで魅力的すぎちゃうから悪いのだ。

 そしてサキュルラストの話も一応聞いていた。
 大人の試練とやらで命を狙われるだけでなく、その後の結婚についてまで左右されてしまうといった事情が分かった。

 女の子にとって結婚は大事なこと。
 大人になるためにその後の結婚相手まで決まってしまうなんてこと許せない。

 強いリュードに頼らざるを得ないことは理解したので助けられるなら助けてあげたい。
 そうルフォンは思っていた。

 リュードは拒否しなくても多少渋るくらいのことはするかと考えていた。
 それをあっさりと助けてあげてほしいと言われて覗き込むルフォンの顔を見つめる。

「……そんなに見つめられると恥ずかしいよ」

 ポッとルフォンの頬が赤くなる。
 村を出るときはまだまだ子供っぽいところがあったのに随分と成長したものである。

「ルフォン」

「なぁに?」

「ありがとう」

「ううん、ちゃんと助けてあげてね……私はちゃんと待ってるし…………その、後でご褒美でもちょうだい」

 恥ずかしさを誤魔化して、ルフォンはまたメモ作業に戻る。
 ご褒美をちゃっかり要求するところも成長している。

 オデコにチューぐらいはしてやろうか。
 流石に口には恥ずかしいけどそれぐらいならリュードも恥ずかしさに耐えて出来る。

 ルフォンに対して温かい愛おしさを感じながらリュードは何がご褒美にいいかを考えた。