聞くところによるとバラーはリュードの父であるヴェルデガーと顔見知りだった。
 顔見知りどころかヴェルデガーはバラーにとって命の恩人ですらあるのだ。

 たまたま危機に陥っているところをヴェルデガーに助けられたことがあった。
 冒険者としての大先輩でもあり改めてお礼が言いたいと思っていたのだけど、ヴェルデガーは冒険をしていてお礼を言う前にバラーの前から去ってしまった。
 
 時が経ち冒険者を引退して王子の護衛として雇われていた、そんな時に息子のリュードが現れた。
 いきなり土下座する理由にはならないけどリュードもある程度の事情はわかった。

「まさかヴェルデガーさんの息子さんにお会いできるとは。何があるか分かりませんね」

 バラーレヴィアンの護衛だというのに甲斐甲斐しくリュードの世話を焼こうとする。
 そんなに子供でもないし、してもらうようなこともないのでやめてほしい。

 レヴィアンや他の護衛は信じられないものを見る目でバラーを見ていて、リュードもなんだか気まずさを感じていた。
 イカツイおじさんに世話されても正直あまり嬉しくもないのである。

 リュードとルフォンはレヴィアンとバラーに招かれて、町の中心にある城の一室に来ていた。
 だがレヴィアンがこの城の主人ということではない。

 レヴィアンはこの城の客人なのである。
 けれど大切な客なのでいくつかの部屋を自由に使っていいと許可を出されていたのでそのうちの一室に客人を招くことも別に構わないのであった。

 本当にいいのかと思うけどレヴィアン側もお城側もいいというので招待に預かった。
 最初は決闘するつもりだったのに最終的には高級なふかふかソファーの上でくつろぐことになった。

「それは王子様が悪うございます」

 どう見たって友達ではないので事情を聞かれたリュードは隠す理由もないので正直に全てを話した。
 必死にここまで誤魔化してきたレヴィアンの努力は無駄になってしまったのだ。

 一方的な一目惚れと一方的な決闘の挑戦状。
 レヴィアンに肩入れすることもなくバラーは冷静に公平な立場から判断を下した。

 キッとバラーに睨まれてレヴィアンが小さくなる。
 逆にバラーがリュードの方寄りの立場をとっているような気がしないでもない。

「どうかお許しください。まだ若く思慮が浅いので堪え性もなく、愚かなのです。どうか王子のお命ばかりはお救いくださいますようにお願いいたします」

 片膝をついてバラーがリュードに頭を下げた。
 長年冒険者をやっていたバラーには分かる。

 リュードはレヴィアンよりも強い。
 戦えばまずレヴィアンは無事ではいられない。

「その、言い過ぎ…………あのような子供じみたマネをしてすまなかった。許してほしい」

 バラーの睨みにレヴィアンは何も言えなくなる。
 ここは素直に謝罪しておくのが1番だとレヴィアンもリュードに頭を下げた。

 もうすでに決闘という雰囲気ではない。
 思いもしなかった出逢いに毒気も抜かれてしまった。

 リュードが渋々うなづく。

「どうでしょうか、まだ宿などお決まりでいらっしゃいませんでしたらこのままここにお泊まりになられてはいかがでしょうか?私たちはここの主人ではありませんが主人は2人ぐらい人が増えたからといって怒る人でもありませんし」

「いえ、流石にそれは……」

 人の家に勝手に泊まるのはよくない。
 それにルフォンに一目惚れしたとのたまうレヴィアンと一緒にいたくはなかった。

 返事も分かっていたのかバラーもそれ以上引き止めることはしなかった。

「本当にご迷惑をおかけいたしました」

「すまなかったな。もしも俺たちの国に来ることがあれば是非俺のところに来てほしい。詫びはちゃんとするから」

「分かった」

 絶対に行かない。
 とも言えなくて笑顔でレヴィアンと握手を交わす。

「おーい、バカ王子いるかー?」

 さっさとこの町を出よう。
 早く出ていきたがっていることを悟られないように余裕を持っている風を装いながら部屋を出て行こうとした。

 なぜか残念そうな表情を浮かべるバラーに見送られて部屋を出ようとした瞬間、ドアが蹴破られた。
 リュードでなかったら蹴破られたドアにぶつかっていただろう。

 スッと後ろに下がってリュードは勢いよく開いたドアを回避した。

「ん、誰だ?」

 ドアを蹴破ったのは赤い目に白い髪をした女の子であった。
 少女というには大人びていて、また女性というには幼さが残っている。

 少女から大人へと至る途中にあるようなあどけなさの残る美少女だった。
 これが綺麗になることが約束されているような顔立ちをしている。

 肌は陶磁器のように白く、髪も真っ白なのに瞳が鮮やかな赤色で宝石のようである。
 手足はスラッとしていて華奢な体格に見えるけれど目の前にいると確かな力強い魔力を感じる。

「お客さん来てたんだ……ははは、失敗した」

 リュードが目の前の少女が誰なのかピンと来た。
 名前が分かったとかではなく、少女の種族が分かり、そこから推測したのである。

 種族名は血人族。いわゆる吸血鬼とも言われる種族である。
 笑うと普通の人よりも鋭い犬歯がチラリと見える。

 なんだろう、面倒な気配がする。

 何かを察したリュードは横に避けて少女が中に入れるようにする。
 このままドア前にいられては出ていけない。