体の力を抜けばそのままリュードの方に倒れ込む。
距離が近いので肩に頭を乗せるぐらいにはなるだろう。
でもわずかに残った羞恥心とマトモな頭がエミナの体のバランスを保ってしまう。
「それにさ、感謝もしているよ。俺もルフォンも友達作るの得意な方じゃないからさ。距離感とか上手くないだろ?
だから友達になってくれて、嬉しかったよ」
正直に思いを打ち明ける。
恥ずかしいけれどエミナの恥ずかしさを思えばこれぐらいどうってことない。
「1番感謝してるのはこの姿のことかな?」
「その姿のこと、ですか?」
見ているだけで惚れ惚れするとエミナは思う。
一回り大きくなった体を覆う黒い鱗は美しい。
いつもよりも顔つきはシャープになって目つきはよりワイルドになっている。
夢にまで出てきてしまった姿。
見せてもらえるだけでエミナが感謝するぐらいでリュードが一体何を感謝することがあるのかエミナには分からない。
「怖がらないでいてくれてありがとう」
エミナと視線を合わせる。
最初こそこの竜人化した姿を怖がっていたけれど、エミナはその後も普通にリュードに接してくれてこの姿で抱きしめてほしいとまで言ってくれた。
抱きしめてほしいまでいくとどうかと思わざるを得ないが不安だったリュードに安心を与えてくれた。
真人族が竜人化した姿を見たら怖がるとか引くとか、気味悪がられてしまうのではないかと心配していた。
そうなっても別にいいとは思っていたのだけれどやはり実際にそうなると嫌な感情があることに嘘はつけない。
しかしエミナはそんなことはなく受け入れてくれた。
リュードにとっての自信にもなった。
エミナはリュードの角やルフォンの耳について話題に出したこともなかった。
それがエミナの意識してやっていることではないとは思うのだけどリュードにとっても触れられないことはありがたい話であった。
だからこそルフォンもエミナが好きなのである。
「でもそんなに特別なことじゃないですよ……」
感謝されてエミナは再び頬が熱くなる。
「エミナにとって特別じゃなくても俺たちにとって特別なんだ」
「ひゃ……ああぁぁぁぁ……」
「ありがとうエミナ」
竜人化した姿でよかったと思う。
きっと真人族の姿ならリュードも顔が真っ赤になっていたところだ。
リュードはエミナの体に手を回して抱き寄せる。
最初は強張ったように力が入っていたエミナの体から徐々に力が抜けていく。
最後にはされるがまま、リュードに抱きしめられた。
リュードの羞恥心が限界を迎える数秒間の出来事。
ドアの前から漂うルフォンの気配もあってとても短い時間のことだった。
けれどもエミナには十分な時間だったようでリュードがエミナを離すとヘニャリと力が抜けてベッドに倒れ込んでしまった。
完全にエミナのキャパシティを超えていたのであった。
エミナがどんな思いを抱えているのか、リュードにも分からないわけがない。
しかしリュードにはルフォンがいるし、多妻が許されていると言っても誰彼構わず手を出していいものでもない。
そこには一応のルールがある。
仮にリュードとそういった関係になりたいならエミナにはルフォンを倒して第一夫人になるぐらいの気迫が必要なのである。
最後の最後に分かったのは、エミナはリュードの竜人化した姿が好きだということ。
なんだか変な発言とかあった気もするが意外なところを好きになってもらったものだとリュードは思った。
ーーーーー
「それじゃあ本当にお別れですね」
城壁もない町だとどこまで見送るか難しい。
町と外の境目は曖昧でもう誰が見ても町の外というところまでエミナたちはリュードたちに付いてきていた。
エミナが立ち止まる。
いつまでも付いていってしまってはこれまでと変わらない。
ちゃんとお別れしなきゃいけない。
3人が立ち止まり、2人が少し歩いたところで振り返る。
ヤノチの耳には黒真珠のイヤリング、エミナの首には黒真珠のネックレス、そしてルフォンの手首には黒真珠のブレスレット。
売ればそこそこの値段になるはずのヴィーナスに選ばれた記念の装飾品。
ルフォンは出会いと別れの記念に女の子3人でそれを分け合うことにした。
同じ黒い真珠の装飾品を3人の友情の品とした。
「……いつか絶対強くなります。強くなって、その時はルフォンちゃんも超えて、リュードさんの隣に私が立ってみせますから」
魔人族が第一夫人以外に妻を娶るために必要なのは何も財力や互いの愛だけではない。
最も大事と言っていいこと、それは第一夫人の許可なのである。
第一夫人に認められることが魔人族の多妻におけるルール。
基本的には強いものが偉いなので夫が認めれば第一夫人に勝負を挑んで勝てれば第一夫人になるなんてこともできる。
倒せなくても認められれば第二夫人になることもできる。
弱い女性は魔人族が多く抱える妻に相応しくないというのが昔からの価値観である。
現代では多妻なんてのも多数派な人ではないけれどそんな根底にあるルールは変わらない。
とすると今のエミナの発言は意味を持つ。
『あなたを倒してリュードの第一夫人になります』
そう宣言したのと同じ。
リュードに告白、どころか結婚の申し込みをしたようなものである。
「…………待ってるよ」
でも実はエミナは魔人族じゃないからその発言の意味を知らない。
単なる決意表明ぐらいの意図しかないのだけど、ルフォンにとっては違った。
いつになく真剣な顔をしたルフォンはジッとエミナの顔をみると言葉少なく体をひるがえして歩き出した。
「またな、みんな」
またな。
この別れは一生の別れではない。
リュードとルフォンはまた新たな地に向かって進み出したのであった。
距離が近いので肩に頭を乗せるぐらいにはなるだろう。
でもわずかに残った羞恥心とマトモな頭がエミナの体のバランスを保ってしまう。
「それにさ、感謝もしているよ。俺もルフォンも友達作るの得意な方じゃないからさ。距離感とか上手くないだろ?
だから友達になってくれて、嬉しかったよ」
正直に思いを打ち明ける。
恥ずかしいけれどエミナの恥ずかしさを思えばこれぐらいどうってことない。
「1番感謝してるのはこの姿のことかな?」
「その姿のこと、ですか?」
見ているだけで惚れ惚れするとエミナは思う。
一回り大きくなった体を覆う黒い鱗は美しい。
いつもよりも顔つきはシャープになって目つきはよりワイルドになっている。
夢にまで出てきてしまった姿。
見せてもらえるだけでエミナが感謝するぐらいでリュードが一体何を感謝することがあるのかエミナには分からない。
「怖がらないでいてくれてありがとう」
エミナと視線を合わせる。
最初こそこの竜人化した姿を怖がっていたけれど、エミナはその後も普通にリュードに接してくれてこの姿で抱きしめてほしいとまで言ってくれた。
抱きしめてほしいまでいくとどうかと思わざるを得ないが不安だったリュードに安心を与えてくれた。
真人族が竜人化した姿を見たら怖がるとか引くとか、気味悪がられてしまうのではないかと心配していた。
そうなっても別にいいとは思っていたのだけれどやはり実際にそうなると嫌な感情があることに嘘はつけない。
しかしエミナはそんなことはなく受け入れてくれた。
リュードにとっての自信にもなった。
エミナはリュードの角やルフォンの耳について話題に出したこともなかった。
それがエミナの意識してやっていることではないとは思うのだけどリュードにとっても触れられないことはありがたい話であった。
だからこそルフォンもエミナが好きなのである。
「でもそんなに特別なことじゃないですよ……」
感謝されてエミナは再び頬が熱くなる。
「エミナにとって特別じゃなくても俺たちにとって特別なんだ」
「ひゃ……ああぁぁぁぁ……」
「ありがとうエミナ」
竜人化した姿でよかったと思う。
きっと真人族の姿ならリュードも顔が真っ赤になっていたところだ。
リュードはエミナの体に手を回して抱き寄せる。
最初は強張ったように力が入っていたエミナの体から徐々に力が抜けていく。
最後にはされるがまま、リュードに抱きしめられた。
リュードの羞恥心が限界を迎える数秒間の出来事。
ドアの前から漂うルフォンの気配もあってとても短い時間のことだった。
けれどもエミナには十分な時間だったようでリュードがエミナを離すとヘニャリと力が抜けてベッドに倒れ込んでしまった。
完全にエミナのキャパシティを超えていたのであった。
エミナがどんな思いを抱えているのか、リュードにも分からないわけがない。
しかしリュードにはルフォンがいるし、多妻が許されていると言っても誰彼構わず手を出していいものでもない。
そこには一応のルールがある。
仮にリュードとそういった関係になりたいならエミナにはルフォンを倒して第一夫人になるぐらいの気迫が必要なのである。
最後の最後に分かったのは、エミナはリュードの竜人化した姿が好きだということ。
なんだか変な発言とかあった気もするが意外なところを好きになってもらったものだとリュードは思った。
ーーーーー
「それじゃあ本当にお別れですね」
城壁もない町だとどこまで見送るか難しい。
町と外の境目は曖昧でもう誰が見ても町の外というところまでエミナたちはリュードたちに付いてきていた。
エミナが立ち止まる。
いつまでも付いていってしまってはこれまでと変わらない。
ちゃんとお別れしなきゃいけない。
3人が立ち止まり、2人が少し歩いたところで振り返る。
ヤノチの耳には黒真珠のイヤリング、エミナの首には黒真珠のネックレス、そしてルフォンの手首には黒真珠のブレスレット。
売ればそこそこの値段になるはずのヴィーナスに選ばれた記念の装飾品。
ルフォンは出会いと別れの記念に女の子3人でそれを分け合うことにした。
同じ黒い真珠の装飾品を3人の友情の品とした。
「……いつか絶対強くなります。強くなって、その時はルフォンちゃんも超えて、リュードさんの隣に私が立ってみせますから」
魔人族が第一夫人以外に妻を娶るために必要なのは何も財力や互いの愛だけではない。
最も大事と言っていいこと、それは第一夫人の許可なのである。
第一夫人に認められることが魔人族の多妻におけるルール。
基本的には強いものが偉いなので夫が認めれば第一夫人に勝負を挑んで勝てれば第一夫人になるなんてこともできる。
倒せなくても認められれば第二夫人になることもできる。
弱い女性は魔人族が多く抱える妻に相応しくないというのが昔からの価値観である。
現代では多妻なんてのも多数派な人ではないけれどそんな根底にあるルールは変わらない。
とすると今のエミナの発言は意味を持つ。
『あなたを倒してリュードの第一夫人になります』
そう宣言したのと同じ。
リュードに告白、どころか結婚の申し込みをしたようなものである。
「…………待ってるよ」
でも実はエミナは魔人族じゃないからその発言の意味を知らない。
単なる決意表明ぐらいの意図しかないのだけど、ルフォンにとっては違った。
いつになく真剣な顔をしたルフォンはジッとエミナの顔をみると言葉少なく体をひるがえして歩き出した。
「またな、みんな」
またな。
この別れは一生の別れではない。
リュードとルフォンはまた新たな地に向かって進み出したのであった。