タコの方はまだ雷属性に慣れていないのでスタンして動かなくなる。
リュードは竜人化で鋭くなった爪をタコの足に差し込み力いっぱいに両手を開いてタコの足を引き裂いた。
火事場の馬鹿力とでもいうのかリュードはタコの足を素手で切断してみせた。
ルフォンを捕らえているのが足先だったから引きちぎって助けられた。
ただちぎられたタコの足も吸盤が張り付いてルフォンから離れない。
ひとまずちぎれた足ごとルフォンを抱きかかえて水面に向かう。
動いているためか息が苦しくなってきた。
時間がない。
けれどそうしている間にタコもスタンから立ち直ってリュードを睨みつける。
せっかく捕らえた獲物を逃すわけには行かない。
タコの足が迫ってくることを感じる。
「お前如きにルフォンをくれてやると思うなよ! 天雷竜撃!」
残りの魔力も多くないことは分かっている。
だから小さい魔法を連発して逃げるのではなく一発の大きな魔法でどうにか撃退せねばならない。
リュードが持ちうる魔力のほとんどを注ぎ込んだ魔法は雷の龍を成してタコに襲いかかる。
迫り来る足に噛みつき絡み合い、電撃が眩い光を放つ。
痺れながらもリュードは手足を動かした。
もう酸素も魔力もない。
最後の力を振り絞って水の中から飛び出したリュード。
タコの足がクッションの役割を果たしてくれて氷の足場に激突することは避けられた。
もはや魔力も尽きて竜人化した姿を保つことも出来なくなっていた。
「リュードさん、ルフォンさん!」
エミナとアリアセンが駆け寄ってくる。
リュードが水中で戦っている間に氷の上ではクラーケンは討伐されていた。
「ルフォンを頼む」
まだタコの気配は水中にある。
なんとかしなきゃみんなに戦う力は残っていない。
リュードは念のためにと持ってきていた防水の袋を開けてその中にあるマジックボックスの袋に手を突っ込む。
黒い塊をいくつか取り出すと握りしめてほぐして穴に投げ込む。
村長印の魔物よけである。
魔物よけが水に投げ込んでも効果があるのかリュードは知らないけれど一縷の望みをかけて水に投げ込んだ。
慌てたように水中の中を黒い影が移動して離れていく。
どうやら成功したみたいでタコが臭いを嫌がって逃げていった。
「りゅ、リュードさん、ルフォンさんが息をしていません!」
エミナの悲痛な叫び。
一瞬目の前が暗くなった思いがした。
フラつく体でルフォンの元に駆け寄る。
ルフォンの口に手を当ててみても息をしていない。
胸に耳を当てると心臓も止まっていた。
「ルフォンさぁん……」
エミナが泣き出す。
周りが状況察して重たい空気が流れ始めた。
リュードも頭を殴られたような強い衝撃を受ける。
「ルフォン……ダメだ!」
しかしリュードは諦めなかった。
ルフォンの頭を下げて顎を上げる。
ゆっくりと息を吸い込むとリュードはルフォンの口に自分の口を重ねた。
胸が膨らむのを確認するとすぐさま胸に手を当ててリズム良く押し始める。
前世で習ったことがある心肺蘇生法。
この世界ではこんな方法取りはしない。
回復魔法が効かなきゃそれで終わり、死亡宣告がなされる。
だけど希望を失ってはいけない。
諦めるには早すぎるとリュードは知っている。
「そんなの……認めない!」
息を吹き込み、心臓マッサージを繰り返す。
反応のないルフォンに視界が段々とぼやけ出してくる。
「頼む…………頼む、ルフォン!」
「……ゲホッ」
リュードの思いが通じた。
ルフォンの心臓が再び動き出し、海水を吐き出した。
横にして背中をさすってやると大量の海水がルフォンの口から出てきて、激しく咳き込んだ後ようやく自分で呼吸が出来るようになった。
「ルフォン!」
「リュー……ちゃん?」
今すぐに抱きしめたいような衝動に駆られるがここは我慢してルフォンの手を取る。
待機していた医療班の魔法使いが奇跡だと言いながらルフォンに回復魔法をかける。
「そうだ……ここにいるぞ」
「泣いてるの……?」
気づけばリュードは涙を流していた。
答える代わりにリュードは強く握りしめた手を自分の額に当てる。
「私ね、分かってた……リューちゃんが来てくれるって」
「絶対に、何度だって助けに行くさ。でも少しは泳げるようになってくれると嬉しいかな」
「ううん、私はこれでいいの」
「そうか、とりあえず今はあまり話さないで休んでくれ」
「リュー……ちゃん!」
「起き上がらないでください! 私たちが診ますので」
ルフォンに微笑みかけたリュードはルフォンの隣に倒れてしまった。
魔力を使い果たし体力も限界を迎えていた。
ルフォンとリュードは戦闘船の中に運び込まれて治療が行われた。
特にリュードは今回の戦いのMVPと言っても過言ではない働きをした英雄で戦いに参加した皆が心配した。
タコの魔物はリュードの魔物よけによってどこかに逃げてしまった。
皆疲労していてこれ以上の戦闘は無理だと判断したドランダラスは一応目的であったクラーケンの討伐で作戦の成功とした。
帰ってきた騎士や冒険者たちを町の人は盛大に迎え入れてくれた。
魔物は脅威でありながら食料や素材ともなり得てクラーケンも例外ではない。
解体されて持ち帰られたクラーケンは町でさらに細かく解体されて宴のメイン食材となった。
誰もがクラーケン討伐を祝い、まだ続く大干潮のことを一時忘れた。
そんな喧騒の中、生死を彷徨ったルフォンも後遺症もなく回復を見せ、運ばれてきたクラーケンを堪能した。
恐れていた生クラーケンもせっかくだしと口にして意外と悪くないことも理解した。
あのタコがなんだったのか誰にも分からず、アレはクラーケンの亜種あるいはあのクラーケンのつがいなのではないかと予想がされた。
ルフォンにくっついてきた足以外に残されたものはなく、それも食べてみるとリュードにとってはタコだった。
謎のクラーケン亜種とされた魔物は消えてしまい、その後の調査でも痕跡すら探し出せなかった。
この事は討伐に参加した皆が口を紡ぎ、ただクラーケンの討伐を喜んで記憶の片隅へと封印した。
ドランダラスも表面上は喜びながらあのクラーケンと次に対峙する時までに準備をしておかなかればいけないと考えていた。
クラーケン討伐成功。
この事実だけを残してタコは深海に消えてしまったのであった。
リュードは竜人化で鋭くなった爪をタコの足に差し込み力いっぱいに両手を開いてタコの足を引き裂いた。
火事場の馬鹿力とでもいうのかリュードはタコの足を素手で切断してみせた。
ルフォンを捕らえているのが足先だったから引きちぎって助けられた。
ただちぎられたタコの足も吸盤が張り付いてルフォンから離れない。
ひとまずちぎれた足ごとルフォンを抱きかかえて水面に向かう。
動いているためか息が苦しくなってきた。
時間がない。
けれどそうしている間にタコもスタンから立ち直ってリュードを睨みつける。
せっかく捕らえた獲物を逃すわけには行かない。
タコの足が迫ってくることを感じる。
「お前如きにルフォンをくれてやると思うなよ! 天雷竜撃!」
残りの魔力も多くないことは分かっている。
だから小さい魔法を連発して逃げるのではなく一発の大きな魔法でどうにか撃退せねばならない。
リュードが持ちうる魔力のほとんどを注ぎ込んだ魔法は雷の龍を成してタコに襲いかかる。
迫り来る足に噛みつき絡み合い、電撃が眩い光を放つ。
痺れながらもリュードは手足を動かした。
もう酸素も魔力もない。
最後の力を振り絞って水の中から飛び出したリュード。
タコの足がクッションの役割を果たしてくれて氷の足場に激突することは避けられた。
もはや魔力も尽きて竜人化した姿を保つことも出来なくなっていた。
「リュードさん、ルフォンさん!」
エミナとアリアセンが駆け寄ってくる。
リュードが水中で戦っている間に氷の上ではクラーケンは討伐されていた。
「ルフォンを頼む」
まだタコの気配は水中にある。
なんとかしなきゃみんなに戦う力は残っていない。
リュードは念のためにと持ってきていた防水の袋を開けてその中にあるマジックボックスの袋に手を突っ込む。
黒い塊をいくつか取り出すと握りしめてほぐして穴に投げ込む。
村長印の魔物よけである。
魔物よけが水に投げ込んでも効果があるのかリュードは知らないけれど一縷の望みをかけて水に投げ込んだ。
慌てたように水中の中を黒い影が移動して離れていく。
どうやら成功したみたいでタコが臭いを嫌がって逃げていった。
「りゅ、リュードさん、ルフォンさんが息をしていません!」
エミナの悲痛な叫び。
一瞬目の前が暗くなった思いがした。
フラつく体でルフォンの元に駆け寄る。
ルフォンの口に手を当ててみても息をしていない。
胸に耳を当てると心臓も止まっていた。
「ルフォンさぁん……」
エミナが泣き出す。
周りが状況察して重たい空気が流れ始めた。
リュードも頭を殴られたような強い衝撃を受ける。
「ルフォン……ダメだ!」
しかしリュードは諦めなかった。
ルフォンの頭を下げて顎を上げる。
ゆっくりと息を吸い込むとリュードはルフォンの口に自分の口を重ねた。
胸が膨らむのを確認するとすぐさま胸に手を当ててリズム良く押し始める。
前世で習ったことがある心肺蘇生法。
この世界ではこんな方法取りはしない。
回復魔法が効かなきゃそれで終わり、死亡宣告がなされる。
だけど希望を失ってはいけない。
諦めるには早すぎるとリュードは知っている。
「そんなの……認めない!」
息を吹き込み、心臓マッサージを繰り返す。
反応のないルフォンに視界が段々とぼやけ出してくる。
「頼む…………頼む、ルフォン!」
「……ゲホッ」
リュードの思いが通じた。
ルフォンの心臓が再び動き出し、海水を吐き出した。
横にして背中をさすってやると大量の海水がルフォンの口から出てきて、激しく咳き込んだ後ようやく自分で呼吸が出来るようになった。
「ルフォン!」
「リュー……ちゃん?」
今すぐに抱きしめたいような衝動に駆られるがここは我慢してルフォンの手を取る。
待機していた医療班の魔法使いが奇跡だと言いながらルフォンに回復魔法をかける。
「そうだ……ここにいるぞ」
「泣いてるの……?」
気づけばリュードは涙を流していた。
答える代わりにリュードは強く握りしめた手を自分の額に当てる。
「私ね、分かってた……リューちゃんが来てくれるって」
「絶対に、何度だって助けに行くさ。でも少しは泳げるようになってくれると嬉しいかな」
「ううん、私はこれでいいの」
「そうか、とりあえず今はあまり話さないで休んでくれ」
「リュー……ちゃん!」
「起き上がらないでください! 私たちが診ますので」
ルフォンに微笑みかけたリュードはルフォンの隣に倒れてしまった。
魔力を使い果たし体力も限界を迎えていた。
ルフォンとリュードは戦闘船の中に運び込まれて治療が行われた。
特にリュードは今回の戦いのMVPと言っても過言ではない働きをした英雄で戦いに参加した皆が心配した。
タコの魔物はリュードの魔物よけによってどこかに逃げてしまった。
皆疲労していてこれ以上の戦闘は無理だと判断したドランダラスは一応目的であったクラーケンの討伐で作戦の成功とした。
帰ってきた騎士や冒険者たちを町の人は盛大に迎え入れてくれた。
魔物は脅威でありながら食料や素材ともなり得てクラーケンも例外ではない。
解体されて持ち帰られたクラーケンは町でさらに細かく解体されて宴のメイン食材となった。
誰もがクラーケン討伐を祝い、まだ続く大干潮のことを一時忘れた。
そんな喧騒の中、生死を彷徨ったルフォンも後遺症もなく回復を見せ、運ばれてきたクラーケンを堪能した。
恐れていた生クラーケンもせっかくだしと口にして意外と悪くないことも理解した。
あのタコがなんだったのか誰にも分からず、アレはクラーケンの亜種あるいはあのクラーケンのつがいなのではないかと予想がされた。
ルフォンにくっついてきた足以外に残されたものはなく、それも食べてみるとリュードにとってはタコだった。
謎のクラーケン亜種とされた魔物は消えてしまい、その後の調査でも痕跡すら探し出せなかった。
この事は討伐に参加した皆が口を紡ぎ、ただクラーケンの討伐を喜んで記憶の片隅へと封印した。
ドランダラスも表面上は喜びながらあのクラーケンと次に対峙する時までに準備をしておかなかればいけないと考えていた。
クラーケン討伐成功。
この事実だけを残してタコは深海に消えてしまったのであった。