他の冒険者や騎士よりも傷が深く、ただお飾りの副団長でない確かな実力が垣間見える。

「1本やったぞー!」

 吉報舞い込む。
 第4騎士団が集中的に攻撃をしていたクラーケンの足の1本が切り落とされた。
 
 歓声が上がり、厄介な魔物も水中でなければ戦えることにみんなが希望を持つ。
 この調子ならクラーケンを倒すこともそう遠い話ではないと大きく士気が上がる。
 
 そう思ったのも束の間、体の痺れから立ち直ったクラーケンが暴れ出す。
 まだスタンの時間も把握できていなかったみんなはクラーケンと近い。

「危ない!」

 動き出した足の1本が第3騎士団を狙って振り下ろされた。

「副団長!」

 それを見て飛び出したのはアリアセン。
 盾に魔力を込めると淡い青い光を放ち、アリアセンの体にまとわれていく。

 アリアセンの盾とクラーケンの足がぶつかる。
 誰もがぶっ飛ばされるアリアセンを想像したがアリアセンはかなり押し返されはしたけれど足を受け切ってしまった。

 ピカピカに磨かれた盾。
 リュードたち以外他の誰も知らないそれはガイデンが使っていた一族に伝わる盾であった。

 リュードから盾を受け取ったアリアセンの父親が盾の整備をして、アリアセンに届けていたのである。
 美しく磨き上げ新品同様の輝きを取り戻したこの盾は何もただ昔から伝わってきただけではなかった。

 盾に刻まれた紋様は魔法であった。
 ヴェルデガーが魔石に魔法を刻んだのと同様のもので、刻まれた魔法は身体強化魔法。

 この盾は実は何百年と代々に伝わる由緒ある代物で魔法が隆盛を誇っていた時代の魔法が使われている。
 現代のものよりも強力なのに、現代のものよりも効率化されていて魔力消費は大きく変わらない。

 ガイデンの盾は盾でありながら同時に魔道具、アーティファクトでもあるのだ。
 アリアセンは盾の力も借りて根性で耐え切った。

 だがクラーケンの一撃は強力だ。
 例え盾で防ぎ身体能力を強化していても盾を持つ手は衝撃によってひどく痺れていた

「みんな今だ!」

 攻撃を止められてクラーケンに隙が出来る。
 アリアセンの声にハッとした第3騎士団がクラーケンの足に猛攻を加える。

「良くやったな、アリアセン!」

 第3騎士団の団長がクラーケンの足に己の大斧を全力で振り下ろす。
 狙いはアリアセンがつけた傷口。

 寸分違わずアリアセンのつけた傷口に当たった大斧はクラーケンの足を両断した。
 これでクラーケンはもうすでに2本もの足を失ったことになる。

 クラーケンは怒りを露わにし、より強くより激しく足を振り回す。

「魔法だ、皆上にも気をつけろ!」

 さらにクラーケンは魔法も使い始めた。
 水の槍が上から降ってきてみんな回避を余儀なくされる。

 足も魔法も当たれば致命的。
 何人かがかわしきれずに槍で貫かれたり足でぶっ飛んだりする。

 防戦一方を強いられる状況の中、動き出したのはリュードだった。
 いつでも魔法を打てる状態を保ったまま、距離をとってクラーケンを観察した。
 
 1回目での傷の位置や足を振り下ろすタイミングなど動きを見て、機会を待っていた。

「食らえ!」

 足を振り上げた状態で魔法を打ち込んでも振り上げたまま痺れてしまう。
 なので出来る限り足を振り下ろしてみんなが攻撃しやすいタイミングで魔法を使う。

 同時に3本の足が振り下ろされ、そのうちの1本には深い傷が見られた。
 リュードの放った雷が真っ直ぐに飛んでいき、クラーケンの足に直撃する。
 
 またビクリとクラーケンがスタンするがリュードはそれで止まらない。
 リュードは剣に魔力を通し、さらに変化させる。
 
 薄くまとわれた魔力は途端にバチバチと音を立てて雷の属性を帯び始める。
 いわゆる魔法剣という技術。
 
 単に魔力を通して強化するだけでなく、属性変化をさせることでより強く武器を強化する技術。

「もう一丁!」

 加護がなかったらなし得なかった難しい技でリュードはクラーケンの足に残された傷跡を切り付けた。
 もう何回か切り付ける必要があるだろうと思っていたのに、まるでバターでも切るような感覚でクラーケンの足に刃が通っていく。

 魔法剣という高等技術、それに加えて相性の良い雷属性の強化が合わさっていとも簡単にクラーケンの足を切り裂く力をリュードに与えた。
 クラーケンにとっての雷属性の魔法は有効打どころか完全に弱点であった。

 剣に込められた雷属性も重なってクラーケンの体がまたビクンと跳ねる。

「やあっ!」

 ルフォンもその隙をついてクラーケン足を切り付ける。
 リュードのように魔法剣なんてことはできないルフォンだが、ナイフに魔力をまとって強化することはやっていた。

 武器に魔力をまとうこと自体は魔力を全身に巡らせて身体能力を強化するやり方の延長線上にあるようなものなのでルフォンにもできる。
 ナイフなので一回一回の傷は浅くても回転が早く正確なルフォンの切り付けは同じ傷口を深くしていく。

 周りの騎士や冒険者も素人ではない。
 リュードがクラーケンをスタンさせることがわかったのでそのタイミングでしっかりと反撃に出ている。

 けれどクラーケンもバカではなかった。

「くっ、危ない!」

 足を飛んで避け、空中でクラーケンの水の槍を剣で防いだところまでは良かったのだが、これまで見せなかった第3の攻撃までリュードは防御できそうになかった。
 クラーケンが口から黒い塊をリュードに向かって吐き出した。