「ちょっとまて……」

 毎回毎回なぜリュードをピンポイントでターゲットに絞って突っかかってくるのか。
 ヒソヒソと聞こえてくる話ではダカンは皆の視界から消え、ルフォンとエミナとヤノチのハーレムパーティーを連れて妊娠した女を捨てたリュードの修羅場ということになり始めている。

 どこかに吟遊詩人でもいるのか、人々が噂話に飢えているのか。
 ダカンが視界から消えるとリュードは多くの女の子と行動を共にしているように見える。

 ちょっとした嫉妬心もあるのかもしれない。
 
「分かったから……ちょっと別の場所に移ろうか」

「ふん、逃さないぞ!」

 また逃げようとしているのか、アイツ。
 そんな声が聞こえてきて思わず何人か手を出してもいいような気がしてしまう。

 アリアセンが絡むとどうにも良くない。
 最初に噛みついてきた時からそんな感じがしていたけれど頭に血が上りやすすぎて会話が通じない時がある。

 戦い方は優秀だったのにカッとなりやすい性格をしている。
 なんとかなだめすかしてアリアセンをギルドから連れ出す。
 
 しばらく活動するつもりだったのにこれでは女を捨てたとして顔を指されることになってしまう。

「……ほんとウソだろ」

 せっかく休んで疲れを取ったのにまたドッと疲れた気分になった。

 ーーーーー

  ハーレムパーティーのすけこまし野郎。
 もうずっと竜人化した姿でいようかと思えるほど不名誉なあだ名を頂いた。

 人の噂が広まるのは早い。
 同じパーティーの女を妊娠させた挙句出産するまで放置、パーティーを切り捨てて逃げ出したクズ野郎がいると驚くほどの早さで話が広まった。

 面白半分、というかほとんど面白いから誇張して話された噂話。
 人を渡るたびに誇張されていき、リュードは各地に妻と大勢の子を抱えることになった。

 話が伝わる中でリュードの容姿についてはボヤけていって黒髪長身のイケメンという薄い表面的なものになったのだが、リュードの特徴としては間違っていない。
 つまりはリュードを見ては、あの話知ってるか? なんてリュードが異国の姫とねんごろになっているような話をヒソヒソとされることになった。
 
 冒険者ギルドという場所がよくなかった。
 暇で下世話な話が好きな人が集まる場所で、ちょっと嫉妬されてしまうような条件の下に騒ぎ立ててしまった。

 おそらくあの場で真面目にアリアセンの言葉を聞いていた人はいない。
 酒を飲みながら片手間に言葉の断片だけを切り取って面白おかしく話していただけなのだろう。

「くそ……なんでこんなとこに……」

 リュードの顔が良いことも癪に触ったのかもしれない。
 どこの世の中でも顔が良い男がルフォンのような美少女といたら嫉妬の対象になってしまう。

 噂が変容しながら広まるのは仕方ないことであるとはいっても、生まれて初めて女性に手を上げたくなった。
 そんな気持ちをリュードに初めて抱かせたアリアセンに引き連れられてリュードはデタルトスのお城に来ていた。

 デタルトスにもお城があった。
 これは元々海からの侵攻に対する防衛城で、今ではデタルトスの政治の中心として使っているものである。

 村の生き残りの人々はここに連れてこられていた。
 村や家族を失った精神的なショックはあるものの体は無事なので、心の方をゆっくりと時間をかけて治していくことになった。
 
 王国のほうで保護して、村の再建をするなり他で暮らすなり当人たちの希望を聞いて今後を決めていくらしい。

「ありがとうございます……あなたがいなかったら僕は売り飛ばされていた」

 残された村人の中で新たにリーダーに選ばれたのは若い男性だった。
 村長の息子で、若くて顔も悪くないからと連れて行かれたから生きていた。

 デタルトスのお城であった村人たちはリュードとルフォンに深々と頭を下げてお礼した。

「強く生きるんだ。これからもっと大変かもしれないけどきっと乗り切れるから」

 奴隷商の男たちが元々活動していたのはこのヘランド王国ではなかった。
 元々の活動拠点はトキュネス。

 金さえ払えば悪いことでも見逃してくれる領主がいて、そこを中心に活動していた。
 しかし最近になってその領主が色々な罪で処刑となり、犯罪に対する取り締まりが非常に激しいものとなった。

 なので少しでも敏感なものはいち早くトキュネスを抜け出していた。
 奴隷商の男たちも上の判断に従ってトキュネスからヘランドに逃げてきた悪人たちだった。

 逃げたのはいいけれど前金で奴隷の引き渡しを受けていた奴隷商は村を襲うという強硬手段に出た。
 森の洋館も仮拠点であって長居はするつもりはなく、奴隷の引き渡しに行くついでに引き払うつもりであったという話だったのである。

 たまたまリュードたちが通りかかっていなかったら、村が壊滅させられて女子供が誘拐されたことにいつ気付いたのだろうか。
 おそらく気付いたとしてもかなり後になっていた。

 国王に報告は上げたので何かしらの動きはあるだろうとアリアセンは言っていた。
 ひとまずデタルトスの城を訪れたのは依頼を終えるためだった。
 
 遺品を置くためのスペースも確保したし早く案内の仕事を終えたいアリアセンにせっつかれた。
 せっせと遺品を出しながらアリアセンが奴隷商についてのことを話してくれたのだ。
 
 村人たちの今後はともかく犯罪者が流れてきているなんてよそ者に言っちゃダメじゃないかと思ったけれど、気になっていたことでもあるのでちゃっかり聞いてしまった。
 まさかトキュネスでの出来事がこんな影響を与えているとは思いもしなかった。
 
 そして改めてキンミッコがどんな人間だったのかもよく分かった。
 前払いで村1つ分の奴隷が必要な相手とは何者か。
 
 妙な引っ掛かりを感じたけれど奴隷商たちの調査は続いているし、アリアセンが直接の担当ではないのでこれ以上の情報はなかった。

「よいしょ……」

 そんなに大変なことではないが一つ一つ丁寧に荷物を出していくとちょっと疲れる。
 デタルトス周辺の人が多く亡くなったというのはウソではなかった。
 
 全体の7割ほどの遺品がデタルトスに運ばれた。
 血縁者や子孫などが見つかった人は連絡が行って遺品を受け取るか聞かれる。
 
 家が断絶してしまっていたり血縁者が見つからなかった人の遺品は国の方で供養してくれる。

「ありがとう……。私は国の代表ではないけど、きっとみんなあなたに感謝してると思うから、代わりに感謝を伝えさせて」

「俺はただ遺品を届けただけさ」

 依頼書に完了のサインをもらう。
 報酬は国からもらうことになっているのでそのままアリアセンからお金の入った袋を貰った。

 依頼書は冒険者ギルドに持っていけば依頼遂行の実績になる。

「いろいろあったけどあなたたちとの時間、楽しかったわ。冒険者と国の騎士は立場が違うからもう会うこともないと思うけどこれからも冒険者として頑張ってね」

「ああ、アリアセンもおじいちゃんに追いつけるように頑張れよ」

 俺はあんまり楽しくなかったという喉元まで出かかった言葉を抑え込んでリュードはアリアセンと別れの握手を交わした。