次の日はちゃんとお店を探すことにした。
 美味しい魚料理の店はどこですかと宿の受付で軽い気持ちで聞いた。

 そうしたら大論争が巻き起こった。
 宿の店員数名と出入りの業者まで混ざってあのお店、このお店とお店の名前が増える。

 最終的に15店舗ほどに絞ってもらい、簡単な地図とともにお勧めいただいた。
 ただもらった地図を見ると15店舗だけでなく、途中途中で他にもいろいろ書き込まれている。

 リュードはまるで道の駅に置いてあるオススメスポットの地図みたいだなと思った。
 どうせなら色々楽しんでみよう。
 
 お勧めされたお店を中心に巡っていくことにした。
 焼き、揚げ、煮る、様々な料理を堪能した。
 
 生で出しているところもあったのだがみんなに難色を示されてしまったのでリュードは生魚のお店は断念した。
 基本的に海に近いところでないと生魚を食べる文化はない。
 
 トキュネスもカシタコウも海に接しない内陸国なので魚を食べないことはなくても生魚は食べない。
 リュードたちがいた村も海から遠かった。
 
 川はあったけれど泥臭くて生では食べることはなかった。
 だからみんな生で魚を食べることにやや抵抗がある

 お醤油のようなものがあるか分からないし生魚は行けたら1人で行くことにした。

「さてと今後の方針だけど」

 そうしてのんびりとして次の方針を考えることにした。
 と言ったけど具体的な目標はない。
 
 神様からされたお願いはあるけれど、それなりに時間があるし大分北まで行くことになるので急いで行くのは惜しい。

「エミナたちはどうするんだ?」

「どうするってなんですか?」

「そもそもお前たちが俺たちに付いてきたのも活動する拠点を見つけるためだったじゃないか」

 建前はそうだった。

「そういえば、そうでしたね……」

 ハッとした顔をするエミナ。
 本来はトキュネスかカシタコウで活動するつもりだった。
 けれども有名になりすぎて活動することが難しいので他国で活動することにした。
 
 たまたま他に行くつもりだったリュードたちがいたので同行させてもらっていた。
 というのがエミナたちの今の状態である。

 エミナの仲間を見つけなきゃいけないと思っていたけれどヤノチとダカンという仲間が出来た。
 もっと仲間がいてもよいけど、どこかに腰を据えて活動するにも十分なパーティーだと思う。

 一緒に旅がしたいというならそれを拒む理由もまたない。
 結局どうしたいかはエミナたち次第、ということなのだ。

 多少海で遊んだり魚料理をまだ堪能したいのですぐに出ていくつもりはない。
 その間にリュードも次にどこに行くのか決めるつもりなのでそれまでにどうするのかエミナたちにも決めて欲しかった。

「3人でよく話し合って決めておいてくれ」

 ヘランドならトキュネスやカシタコウからも近く、魔物の活動も活発なので冒険者にとっても良い活動拠点になる。
 まだトキュネスやカシタコウでの話が伝わってくる可能性もあるけれど、最終的に国に戻って活動するつもりがある3人のことを考えると離れすぎても良くないだろう。

「とりあえずこの国の冒険者の感じを見るためにしばらくここで依頼をやっていこうか」

 冒険者ギルドの雰囲気とか分からないことの方が多い。
 国によっても雰囲気が異なってくるので合わないとなったら別の国に行けるのも冒険者という職業だ。

 ヘランドは縦に長い国で今のところエミナやヤノチの噂が聞こえてきてはいない。
 雰囲気を掴んでおこうというリュードの提案にエミナたちも頷いた。

 首都のザガーの方でもいいし冒険者の拠点は何も大都市だけとは限らない。
 選択肢が多いのはいいことだけど多すぎてもまた困りものである。

「魔物の討伐系依頼は多いな」

 リュードたちは冒険者ギルドを訪れた。
 魔物の活動が活発なだけあって魔物に関する依頼が冒険者ギルドには多く張り出されていた。
 
 酒場もレストランもやっているギルドでレストラン味が強い。
 出入りしている冒険者の数も多い。

 国が変わると魔物も変わる。
 ここは特に海が近いので他では見られない魔物の討伐依頼もあった。

 他にも交易船に帯同しての護衛依頼や魚取りの手伝い依頼なんてのもある。
 海系の依頼はリュードたちが受けることはないのだが、危険が伴うためか高めに依頼料が設定されていたのでお金に困っているなら受けてもいいかもしれない。

「おい、どうして私を置いて行った!」

 ボーッと依頼を眺めていると後ろから近づいてきた女性に肩を掴まれる。

「んっ? ああ、アリアセン、元気だったか?」

「何を呑気にのたまっているのだ! 私1人に面倒を押し付けて勝手に去っていくとは許せないぞ!」

 ざわざわとしていたギルドの中の注目がリュードとアリアセンに集まる。
 ざわざわの内容がこれまでの会話から騒ぎ立てる2人がどんな関係かに変わるのはあっという間であった。

「子供もいて私1人では対応しきれなかったのだぞ、お前も手伝うべきだろう!」

 怒り心頭のアリアセン。
 確かに逃げるようにその場を離れたことは悪いのだが、場所か言葉を選んでほしい。

「あいつ子供を女に押し付けて逃げたって?」

「うわっ、やるだけやって逃げたのか、若そうな好青年に見えても最低のゲス野郎だな」

 早くも始まる曲解。
 おそらく最初は冗談のようなものが始まりだった。
 
 だが冗談が伝播して、誰もそんなこと言っていないのに言葉を繋ぎ合わせて想像力をミックスさせると頭の中で面白いようにストーリーが展開されてしまう。