ファロンドールが指示を飛ばして門番たちが慌ただしく城内に入っていく。
一国の宰相に案内されて通されたのは狭い応接室。
しかし軽んじられているのではない。
逆である。
上手く隠してはいるけれどドアは普通に見えて鉄板が入っている。
壁も厚く、こちらもヘタをすると金属で補強してあるかもしれない。
壁からほんのりと魔力も感じる。
盗聴防止が何かの魔法でもかけられているのだろう。
普通では使われないような厳重な作りになっていることをリュードは見抜いていた。
「こちらでもう少々お待ちください。これらはご自由にお食べください」
テーブルの上にお茶とお菓子が運ばれてきたので、言われた通りに遠慮なくお菓子を食べているとファロンドールが2人の男性を引き連れて応接室に戻って来た。
バタンとドアを閉めてリュードたちに向かい合うように3人が椅子に座る。
真ん中に立派なヒゲを整えた老年の男性が座り、ファロンドールがその左隣、もう1人の中年男性が右隣に座る。
「まずは自己紹介といこう。私はドランダラス・ゴラム・ヘランド。この国の王だ」
「私はベルベラン・ドゴノスディアと申します。国務大臣を勤めております」
真ん中が王様のドランダラス。右隣が国務大臣のベルベランである。
出てきた相手にリュードは驚いた。
まさかサッと王様クラスが出てくるとは思ってもみなかった。
「俺はシューナリュードです。こっちはルフォンです」
ルフォンが軽く会釈をする。
リュードとルフォンはこの国の臣民ではない。
自分の王でもない以上対等な立場であり、人としての敬意は払っても必要以上に謙ることはない。
むしろ用件の内容を考えたらリュードたちは大事なお客様である。
「君たちが見せたという札だが、私に見せてもらってもよろしいかな?」
「はい、もちろんです」
リュードが札をテーブルに置くとドランダラスが目を見開く。
ファロンドールと似たような反応である。
わずかに震える手で札を取って、隅々まで穴が開きそうなほど札を確認する。
「これを……どちらで手に入れられたのかお聞きしてもよろしいですか?」
「とある方から預かりました」
「とある方とは一体どなたですか」
「……今これから話すことは嘘偽りのない真実です」
リュードは何があったのかを3人に話した。
ゼムトがリュードに渡した札は身分証であった。
王族の一員であることを表す世界に2つとないその人だけが持つ札。
リュードがたまたまスケルトンになったゼムトに会ったことや遺品を託されたことを伝えるとドランダラスはハラハラと涙を流し始めた。
王としてもあるまじき行為だがファロンドールも涙を堪えるのでいっぱいいっぱいだった。
壁の厚い重警備の応接室を選んで正解だった。
ここなら他に醜態を見る人はいない。
「兄が……ゼムトがそんなことになっているなんて……」
ドランダラスはファロンドールから渡されたハンカチで涙を拭いてリュードに向き直る。
「遺品を託されたとおっしゃいましたな。名簿はあるとのことでしたがこちらでも当時の名簿を確認して遺族を探しましょう。少しこちらにお時間いただけますか?」
ゼムトたちが戦った時からもうかなり時間が経ってしまっている。
当時の名簿だって探すことは難しいかもしれない。
遺族だってまだ生きているか怪しいところである。
「ありがとうございます」
リュードがうなずくとドランダラスは弱々しく微笑んだ。
「今この時より貴方様はこの国の貴賓となります。お泊まりのところはおありでしょうか? よければ王城にお泊まりいただければと思いますが」
「宿はあるので大丈夫です、ファロンドールさん」
「そうですか、失礼しました」
王城に泊まるということに興味がないこともない。
でも泊まるならじゃあとはいかず、エミナたちも連れてくるしかない。
自由に旅することがモットーなので目をつけられて厄介なことに巻き込まれたくもない。
もったいないけれど王城にお泊まりするのは断っておく。
「何かありましたらいつでもお申し付けください。それで1つお聞きしたいのですがその遺品はどちらに……?」
大型船なので船員は少なくない。
仮に厳選して遺品を1つずつに限定したとしてもカバン1つに収まるとも思えない。
今は持っていないようであるが、どこかに保管しているのか気になった。
当然の疑問だと思う。
ニッと笑ってリュードはテーブルに1つの袋を置いた。
「これは? ……これは!」
なんの事だか分からなそうだったファランドールは一瞬でこの袋のことを理解した。
これは遺品が詰め込まれた空間魔法の袋。
国宝級のアイテムなのだが、ゼムトが持っていたので長らく王国では失われた存在であった。
「まさかこちらは!」
「そうです。ゼムトから貰いました」
「あっ、うむ、そうですか……」
絶対必要なものでもないので返せと言われたら返すつもりもあった。
ただ一応遺品を持っていくお礼として貰ったものなので貰ったと言っておく。
恩人にそれは国の国宝だから返せとはファランドールも言えない。
ドランダラスも何かを察したのか何も言わない。
「私も1つ、聞いてもよいか?」
「はい、何でしょう?」
「兄は、何か最後に言っていたか?」
「……先にゼムトの遺品をお渡ししましょうか」
一国の宰相に案内されて通されたのは狭い応接室。
しかし軽んじられているのではない。
逆である。
上手く隠してはいるけれどドアは普通に見えて鉄板が入っている。
壁も厚く、こちらもヘタをすると金属で補強してあるかもしれない。
壁からほんのりと魔力も感じる。
盗聴防止が何かの魔法でもかけられているのだろう。
普通では使われないような厳重な作りになっていることをリュードは見抜いていた。
「こちらでもう少々お待ちください。これらはご自由にお食べください」
テーブルの上にお茶とお菓子が運ばれてきたので、言われた通りに遠慮なくお菓子を食べているとファロンドールが2人の男性を引き連れて応接室に戻って来た。
バタンとドアを閉めてリュードたちに向かい合うように3人が椅子に座る。
真ん中に立派なヒゲを整えた老年の男性が座り、ファロンドールがその左隣、もう1人の中年男性が右隣に座る。
「まずは自己紹介といこう。私はドランダラス・ゴラム・ヘランド。この国の王だ」
「私はベルベラン・ドゴノスディアと申します。国務大臣を勤めております」
真ん中が王様のドランダラス。右隣が国務大臣のベルベランである。
出てきた相手にリュードは驚いた。
まさかサッと王様クラスが出てくるとは思ってもみなかった。
「俺はシューナリュードです。こっちはルフォンです」
ルフォンが軽く会釈をする。
リュードとルフォンはこの国の臣民ではない。
自分の王でもない以上対等な立場であり、人としての敬意は払っても必要以上に謙ることはない。
むしろ用件の内容を考えたらリュードたちは大事なお客様である。
「君たちが見せたという札だが、私に見せてもらってもよろしいかな?」
「はい、もちろんです」
リュードが札をテーブルに置くとドランダラスが目を見開く。
ファロンドールと似たような反応である。
わずかに震える手で札を取って、隅々まで穴が開きそうなほど札を確認する。
「これを……どちらで手に入れられたのかお聞きしてもよろしいですか?」
「とある方から預かりました」
「とある方とは一体どなたですか」
「……今これから話すことは嘘偽りのない真実です」
リュードは何があったのかを3人に話した。
ゼムトがリュードに渡した札は身分証であった。
王族の一員であることを表す世界に2つとないその人だけが持つ札。
リュードがたまたまスケルトンになったゼムトに会ったことや遺品を託されたことを伝えるとドランダラスはハラハラと涙を流し始めた。
王としてもあるまじき行為だがファロンドールも涙を堪えるのでいっぱいいっぱいだった。
壁の厚い重警備の応接室を選んで正解だった。
ここなら他に醜態を見る人はいない。
「兄が……ゼムトがそんなことになっているなんて……」
ドランダラスはファロンドールから渡されたハンカチで涙を拭いてリュードに向き直る。
「遺品を託されたとおっしゃいましたな。名簿はあるとのことでしたがこちらでも当時の名簿を確認して遺族を探しましょう。少しこちらにお時間いただけますか?」
ゼムトたちが戦った時からもうかなり時間が経ってしまっている。
当時の名簿だって探すことは難しいかもしれない。
遺族だってまだ生きているか怪しいところである。
「ありがとうございます」
リュードがうなずくとドランダラスは弱々しく微笑んだ。
「今この時より貴方様はこの国の貴賓となります。お泊まりのところはおありでしょうか? よければ王城にお泊まりいただければと思いますが」
「宿はあるので大丈夫です、ファロンドールさん」
「そうですか、失礼しました」
王城に泊まるということに興味がないこともない。
でも泊まるならじゃあとはいかず、エミナたちも連れてくるしかない。
自由に旅することがモットーなので目をつけられて厄介なことに巻き込まれたくもない。
もったいないけれど王城にお泊まりするのは断っておく。
「何かありましたらいつでもお申し付けください。それで1つお聞きしたいのですがその遺品はどちらに……?」
大型船なので船員は少なくない。
仮に厳選して遺品を1つずつに限定したとしてもカバン1つに収まるとも思えない。
今は持っていないようであるが、どこかに保管しているのか気になった。
当然の疑問だと思う。
ニッと笑ってリュードはテーブルに1つの袋を置いた。
「これは? ……これは!」
なんの事だか分からなそうだったファランドールは一瞬でこの袋のことを理解した。
これは遺品が詰め込まれた空間魔法の袋。
国宝級のアイテムなのだが、ゼムトが持っていたので長らく王国では失われた存在であった。
「まさかこちらは!」
「そうです。ゼムトから貰いました」
「あっ、うむ、そうですか……」
絶対必要なものでもないので返せと言われたら返すつもりもあった。
ただ一応遺品を持っていくお礼として貰ったものなので貰ったと言っておく。
恩人にそれは国の国宝だから返せとはファランドールも言えない。
ドランダラスも何かを察したのか何も言わない。
「私も1つ、聞いてもよいか?」
「はい、何でしょう?」
「兄は、何か最後に言っていたか?」
「……先にゼムトの遺品をお渡ししましょうか」