小悪党はキンミッコが雇った傭兵だった。
 金さえ払えばなんでもやるような汚い傭兵で、パノンとミエバシオを相手にするために自分の兵だけでは不安で頭数として揃えられていた。

 全ての事が済んだ後キンミッコは口止めも兼ねて傭兵たちを自分の兵として雇い入れた。
 甘い汁を吸わせておけば大人しくしているだろうと思っていたのだ。

 しかし生まれ持って悪党の性格を持った小悪党の男はその後の平和な生活に満足できなくなった。
 小悪党の男は素行が悪く、批判がキンミッコの元に寄せられた。

 これ以上の批判が寄せられることを恐れたキンミッコは男を領地から追放した。
 二度と領地に近づくなと金を握らせて追い出したのだが男は金がなくなってキンミッコに無心しに来るところであったのだ。

 普段なら妄言で片付けられる話だったけれど、偶然が重なって小悪党の男の話が上の者の耳に入った。
 小悪党の男がキンミッコの下にいたことはすぐに調べがついた。
 
 良くも悪くも素行の悪さが評判だったからである。
 結果論ではあるがやるなら傭兵も片付けるべきだった。
 
 裏切りや流れに敏感な傭兵をキンミッコが倒せたかは不明であるが。
 トキュネスは秘密裏に調査を進めた。

 傭兵の中には貴族の兵となり感謝して口を割らない者もいたのだが、酒を飲ませるとキンミッコの愚痴と共に当時のことを語る者もいた。
 キンミッコがパノンとミエバシオを奇襲して死に至らしめた。

 多くの証言が取れて推測は確信へと変わった。
 あたかも功臣の顔をして全てを持っていたキンミッコこそが両国の和平をひっくり返し関係を悪化させて、前途有望な者を殺した最悪のクズ野郎だったのだ。

「今ごろお前が雇い入れた傭兵たちはトキュネスとカシタコウの連合に捕らわれているだろうな。一体どれほどの者がお前について義理だてしてくれるだろうかな」

 ウカチルが全てを話し終えた時にはキンミッコはもう切られた腕の痛みすら感じていなかった。

「貴様には裁判を受けることも証言する権利もない。ただ僕が断罪する権利を両国から与えられた」

「む、息子だけは! あの子は何も関係がない……!」

「国家への反逆は一族郎党死罪だ。傭兵だけでなくお前の屋敷にも兵が押しかけているだろうな」

 絶望。
 これまで築いてきたものが音を立てて崩れていくようだった。

 言い訳も何も思いつかない。
 すがりつこうとするキンミッコにウカチルは剣を向ける。

 最後まで嘘をつき、卑怯な行為をしようとしたキンミッコにかける慈悲はない。
 もし自白して全てを失う覚悟があったなら命だけは助けてやっただろうに、キンミッコは最後まで嘘で塗り固めた人生の真実を自ら語ろうとはしなかった。

「ただし、助けてやらないこともない」

「本当か! どうすればいい!」

「近寄るな。みんな、入ってくるんだ」

 ドアの外にウカチルは声をかけた。
 エミナやヤノチ、リュードにルフォン、マザキシとダカンが部屋に入ってきた。

「き、貴様!」

 キンミッコの目にまず入ってきたのはリュード。
 あえて竜人化をした姿をして入ってきたのであった。

 エミナを連れ去った英雄を名乗る謎の者はやはり仲間であったのかとキンミッコが怒りに震える。

「言っただろ? お前には天罰が下ると」

「く、くそぅ……」

 キンミッコの顔が赤くなり、すぐに青くなる。
 まさしく言った通りになった。

 怒りたいが腕を切られた時に失った血が多くて、怒ると頭がクラクラしてしまう。
 ここで怒りをぶつけても相手にいいようにされた事実は変わらない。

 助かるかもしれないこの状況では声を荒げるのは得策でもない。
 キンミッコはうなだれた。
 
 リュードが誰で、どんな関係のやつだったのか一気にどうでもよくなった。
 血が足りなくて思考力も落ちている。

「被害を受けたのは何も僕だけじゃない。パノンの娘さんや僕の妹も当然被害者だ。もし、彼女たちが貴様を許すというなら、息子の命ぐらいは助けるように口添えしてやってもいい」

「ほ、本当か!?」

 キンミッコはすぐに2人に視線を向ける。
 どうしてだろうか必死に助けを求める父親の目ではなく、2人には濁っていて薄汚いゴブリンのような目にしか見えなかった。

 ふと隣同士に立つ2人の手が触れて、自然と手を取り合った。

「私はあなたを許しません」

 まず口に出したのはヤノチたった。
 キンミッコの目を見てハッキリと切り捨てた。

 キンミッコの瞳が動揺に揺れて、最後の希望であるエミナにのみ向けられる。

「私は……」

 息が詰まって言葉が出てこない。
 ヤノチが先に答えてしまったのでキンミッコの命はエミナに握られることになった。

 切羽詰まった戦いの中で人の命を奪うのとはまた違う命の選択。
 やらなきゃやられるのではなく、一方的に相手の命を生かすも殺すもできる。

 こんなことならヤノチに乗っかって勢いで言ってしまえばよかったと少し後悔した。
 答えは決まっているのに言い出せない。
 
 人の命を奪うことが急に怖くなって、そんな選択をしようとしている自分を周りがどう思うのかが怖くなって。
 周りというかリュードとルフォンがどう思うか。
 
 もしこの選択に引かれてしまったらと考えると苦しくなってくる。

「はい?」

「えいっ」

「……はい?」

 肩を叩かれて振り返ったエミナの頬にルフォンの指が刺さる。
 古典的ないたずら。

「大丈夫だよ」

 ジッとエミナの目を見てルフォンが言う。
 ルフォンの目は優しくて、それ以上言わなくても何が言いたいのか伝わってくる。

「リュードさん……」

 逆側に振り返るとリュードがいる。

「大切なのはどうしたいか、だ。それにエミナがどんな選択をしても、俺たちはエミナの味方だ」

 流石にひどく拷問でもしろなんて言い出したら止めるけど基本的にはエミナの考えを尊重する。
 こんな場だから言わないだけでリュードもルフォンさっさとヤってしまえなんて思っていたりもする。
 
 泣きそうになって口をグッと結ぶ。
 こんなことで嫌いになってくれるような人たちじゃなかったのだとエミナは大きく頷いた。

「私もあなたを許せません」

 苦しくて死んでしまい日々だった。
 父親が不名誉を背負って死に、母親が心労で追いかけるように亡くなった。
 
 両親がいなくなった後の中傷の石はエミナに投げられた。
 1人でも、どこでも生きていけるようにとおばあちゃんが冒険者学校に送り出してくれた。
 
 こんなことでもして、目標を見つけなかったらダメになっていたかもしれない。
 ただ、少しだけ、ほんの少しだけ感謝しているところもある。

 リュードとルフォンに出会えたことだ。
 きっと何事もなくそのまま暮らしていたのなら出会うことのなかった2人。

 この出会いは何物にも代え難い宝物である。
 こんな人生を歩んできたけれど、こんな人生だからこそ出会えた。

 だからほんの少しだけ感謝はしている。

「私はあなたの全てが許すことができません」

 でもやっぱりこの男は手に入れた全てを失うべきなのだ。
 息子も甘やかれて育ったクズ野郎だったので助けてやりたいと思う気持ちも全くなかった。

「私は……私は…………」

 涙が溢れて止まらなくなった。
 子供のように泣いた。

 ウカチルが腕を振り上げて剣の柄でキンミッコを殴りつけて気を失わせて何処かに連れていった。
 ヤノチもエミナに釣られてか、同じように泣き出した。

 同じ傷を持つ2人は、互いに慰め合うようにしながら疲れ果てるまで泣いた。
 パノンとミエバシオは互いを認め合っていた。
 
 和平がなり、平和な時代が来たら自分の息子と娘を結婚させようなんて話まであった。
 少し違った結末を迎えていたならばエミナとヤノチは姉妹になっていたかもしれない。

 誰も知らない話。
 迎えた結末は異なるものであったのだがパノンとミエバシオは決して互いを憎み合うものではなかったのである。

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