「あいつが戦争で名を馳せた化け物な訳がない。恐れるな!」

 ご先祖様は魔人族の英雄。
 単純に魔人族の英雄といえば竜人族以外の種族にもいるのだが、面白いのはそれぞれの種族の英雄にはそれぞれ特色があることだった。

 英雄の1人が竜人族ということで竜人族はよくこうした英雄の話をする。
 中でも竜人族のご先祖様のシュバルリュイードの特色は竜人族というだけでない。

「チェーンライトニング!」

 竜人族の英雄の特色は雷属性の魔法をよく使っていたことである。
 竜人族は魔法が得意なので他の属性も使えるのだが、シュバルリュイードは雷属性の魔法をよく使っていたらしいのだ。

 理由は単純明快で雷属性が空いていたからというのが竜人族にひっそりと伝わっている。
 たまたまそれぞれの種族から英雄と呼んでいいレベルの者が出た。
 
 種族によっては得意な属性や戦い方があり、英雄それぞれ別々の特色を持っていた
 火は魔王が使っているし他の属性も他の英雄となる人が使っていた。
 
 なので特徴を持たせる意味でも雷属性を使っていたのである。
 つまりシュバルリュイードは自分という存在を際立たせるために雷属性を選んだのだ。
 
 見た目と合わせて黒雷なんて呼ばれていたらしい。
 とんでもない話であるが遥か昔の魔力が多い時代の竜人族は魔法も色々使えたので雷属性でもなんの問題もなかったのである。

 空気に魔力が拡散する速度が早い雷属性は力の消耗が激しく、生まれ持って雷の性質をもつ者以外にはあまり使われない。
 魔法が衰退した今現在ではより下火になっている属性である。

 けれどもリュードは魔法の勉強が好きで、失われつつある雷属性はヴェルデガーの魔導書の中にも書いてあった。

「ぎゃああああっ!」

 リュードが放った雷は1番近くの兵士に当たり、威力を減じながら次々と近い人に連鎖していく。
 1回の魔法で十数人が感電してしまう。

 倒れたのは最初に感電した数人だったが倒れなかった人も全身に走る感じたことのない痛みに多くひるんでいる。
 ご先祖様に憧れて、ではなく狩りの時感電させられたら便利そうという理由で練習していたのでリュードは雷属性も扱えた。
 
 魔力も多く電気のイメージが出来たリュードは他の人よりも雷属性に適性があったのだ。

「あれは雷魔法!」

「ウソだろ! 今時あんな魔法扱える奴がいるのか!?」

「まさか本当に英雄……しかしもうとっくに死んでいるはずだ!」

 敵に動揺が走る。
 真人族は身体能力的に魔法耐性が低いので雷属性の魔法はよく効く。

 身につけている防具だってアンチマジックの性能もなければ鎧も着ていないも同然である。
 こう考えると雷属性は奇しくも真人族キラーな性能を持つ魔法となる。

 キンミッコは求心力がないようだ。
 命をかけてリュードに挑んでくる者もいなければ適正な指示を飛ばす指揮官もいない。

 やる気もなく統率も取れていない、槍や剣を持った烏合の衆。

「道を開けろ!」

 リュードが右手を上げる。
 バチバチと雷が弾ける音がし始める。

 わざとすぐには魔法を打たず道を開ける時間をつくってやる。
 人が避けたのを確認してそこに雷を落とす。

 カッと一瞬閃光が走り、雷が床にぶつかって轟音が鳴る。
 教会の床が焦げてしまったが、悪人に結婚式を開かせた代償だと思って許してほしい。

「行くぞ」

「リュリュリュ、リュー……」

「シィー! 名前を呼ぶな」

 エミナを抱きかかえる。いわゆるお姫様抱っこというやつである。
 体面的にエミナが大人しく付いてきたよりも誘拐っぽく見えるはずだ。
 
 あくまでもリュードが連れ去ったのである。
 急な密着にエミナの顔が一瞬で真っ赤になる。

 普通に名前を呼びそうになったのでエミナの口に尻尾を押し当てて黙らせる。
 エミナはほんのりと冷たいようなゴツゴツとした尻尾の感触に余計に顔を赤くする。

 雷を避けて人が割れて道ができている。
 リュードはあえて堂々と真ん中を歩き、教会を出る。
 
 こうなると一介の兵士では空気に飲まれてしまって動くことすらできない。
 少しでもまともな指揮官がいればすぐにでも囲まれてしまうのだろうが、そんな支持を出せるような人物はキンミッコ側にいない。
 
 強いて言うなら最初に殴り倒した重装備の兵士がそんな人物だったのだろうが今も気を失って倒れている。
 ある意味最初に倒した人物が指揮を取るような兵士だったのは運が良かった。

 教会を出るとその正面にある学校の窓から様子を見る子供たちが見える。
 今子供たちに自分はどう見えているのかとチラリと視線を向けた。

 花嫁を抱き抱えて連れ去ってきたリュードの姿を見て、子供たちは目を輝かせていた。
 まるでおとぎ話の王子様のような堂々たる姿に男の子だけでなく女の子も憧れの視線を向ける。

 身長の高いリュードの腕の中にいるエミナの顔は他に人からはよく見えないが高いところからでは見える。
 頬を赤く染め、潤んだ瞳でリュードを見上げるその様は嫌がっているようには見えなかった。

 子供たちはこの物語を見逃すまいと固唾を飲んでリュードの姿を見守る。

「開けろ」

 門は人が入らないように閉ざされていた。
 リュードは門を開けるように命じた。

 異様な光景に完全に飲まれてしまった兵士は門を開け放ち、リュードはゆっくりと教会の敷地から出てきた。
 教会の前に集まっていた人々もリュードから離れて様子を見る。
 
 リュードの周りだけぽっかりと円形に人がいなくなっていた。
 これはちょうどよい。
 
 いくなら最後まで派手にやってみよう。

「キンミッコ! 悪辣なやり方は神になった俺が見ていた。貴様には天の罰が下るだろう!」

 下ればいいなとリュードは思う。希望的観測だ。
 しかしエミナとヤノチを取り戻せば今回の交渉はキンミッコに相当不利なはずである。

 天罰といかなくても相当な不利益を被るだろうからあながち希望だけでもないだろう。
 リュードの周りに雷が落ちる。
 
 魔力は消耗してしまうけど、これぐらい派手にやってもバチは当たらない。
 眩い光と轟音に人々は目を逸らし、耳を塞いだ。

 この時に正義と愛と雷と竜人族の神シュバルリュイードがこの世に認知され、誕生したのであった。
 教室の中にいた子供たちだけが窓の外を通り過ぎる黒い影を目撃し、他の人々は円形に焼け焦げた跡だけが残って消えたリュードに言葉もなくただ立ち尽くしていたのであった。