「キンミッコって、息子はまだガキだったろ?」
「いやいや、息子じゃなくて本人が結婚するんだとよ」
「はあっ!? キンミッコだってもう結構な年だろ?」
キンミッコやパノンという単語が聴こえてきて、大きな声で噂話をする男たちの方にリュードたちは意識を向けた。
「そうだけど何でも内々に結婚する準備を進めてたらしくて明日教会を貸し切って結婚式をやるんだって話だぞ」
「明日って……また急な話だな」
「そうだよな、トキュネスとの交渉だってもう3日後だしな」
「カシタコウに領地を返さなくていいように民のご機嫌取りの結婚じゃないのか?」
「確かに、その可能性あるな。だとしたらパノンの娘も可愛そうにな」
「ジジイと結婚するんだもん、何か事情があるんだろな」
手に力が入ってフォークがひん曲がる。
この結婚話、よく聞かなくても誰のことか分かる。
エミナの話だ。
ルフォンも怒りで据わった目でテーブルの料理を見つめている。
「ちょっといいか?」
「あ? なんだよ?」
どうしても気になることがあったので噂話をしている男たちのテーブルにリュードが座る。
「ちょっと頼みすぎちゃって、良かったら食べてくれないか?」
まだ手をつけてない皿を1つテーブルに置く。
先ほどまでは怖い顔をしていたリュードだけど今は柔らかに微笑んでみせている。
「へぇ……まあそういうなら」
食べきれないから料理をくれるなんて怪しい話であるがタダでもらえるならと男たちは料理を受け取った。
「さっきの会話聞こえててさ、1つ聞きたいんだがいいかな?」
「ああ、別にいいぞ。でも俺たちも噂以上のことは知らないぞ」
男たちが料理に手をつけるのを待ってリュードも質問する。
何が目的だろうと思っていたが噂話について答えるだけなら簡単なものである。
「どうしてパノンの娘と結婚すると民のご機嫌取りになるんですか?」
まだエミナがパノンの娘だと確定したものではないがタイミング的にパノンの娘がエミナである可能性は高い。
こんな状況なのだ、偶然であることなんてあり得ないとリュードは思っている。
ならばこの話はエミナとキンミッコというやつの結婚話ということになる。
この結婚話にエミナが誘拐された理由がある。
そうリュードは考えたのだ。
一から全部聞いていきたいところであるが男たちも細かくは知らなそうである。
でもどうにも男たちはキンミッコが人気取りでパノンと結婚しようとしていると言っていた。
そこが引っかかったのである。
「あんたよそ者か? ならしょうがねえか」
トキュネスでは汚れた貴族、カシタコウでは卑怯者なんて言われているパノン。
パノンはどこからも良くない言われ方をしている。
土地を奪い取った貴族なのであるからカシタコウ側から卑怯者と呼ばれている理由は分かるけれど、なぜトキュネスからもそんな呼び方をされているのか。
そこについても聞きたかったが話の腰も折れずにそのまま流されてしまった。
「だがパノンっての悪い奴らじゃなかったんだよ」
「良い人だったんですか?」
「そりゃあな。領地を奪った奴らだったが住んでる人のことはちゃんと考えてくれる人だったよ」
しかしトキュネスが奪い取った地域に住んでいてパノンと交流があった人はパノンのことを悪く言わないのだと男たちは言った。
どこから流れた噂なのかひどい人間だったような印象になっているけれど、実際のパノンはそんな悪く言われるような人物でなかったらしい。
トキュネスの領地となっているここを今はキンミッコが管理しているが、奪い取られた直後はパノンが支配していたのである。
その時にパノンは不安の大きい住民たちに丁寧に親切に接していた。
だからここの住人に限ってはパノンの根強い支持がある。
むしろ今ここを治めているキンミッコの方が評判がよろしくない。
「だが領主がパノンからキンミッコに代わってな……すっかり様変わりしちまった。あのクソ野郎、俺たちから搾取して自分の懐肥やしてやがるんだ」
「キンミッコの方が汚れた貴族っていう方が俺たちからしてみれば正しいぐらいだ」
そんな状況でトキュネスとカシタコウの領地返還の話し合いがもたれることになった。
どれほどの領地を返していくのかは交渉次第となった。
けれどキンミッコのせいで領民の不満は高くて全領地返還の方に領民の意見は大きかった。
支持がないとなるとこの領地を返す方に交渉が傾きやすくなる。
慌てたキンミッコが簡易的に支持を集める方法として支持のあるパノンの娘を取り込む、つまりは結婚するなんて方法を取ろうとしている。
というのが男の予想であった。
「ありがとうございます」
「なんでこんなこと知りたいか知らねぇがキンミッコに手を出そうなんて考えるなよ? あいつ金だけはあるから私兵も山ほど雇ってるんだ」
「ええわかってますよ」
少し酔っ払っているのかざっくりとした話だったけれどエミナが誘拐された理由が分かった。
キンミッコは支持の薄い自分の広告塔にエミナを利用して領民の理解を得て、さらに交渉相手であるヤノチの兄をヤノチで脅迫して交渉を有利に進めようとしている。
エミナもヤノチも同じ目的のために誘拐されていた。
男たちの話し振りを聞くに結婚に違和感を感じている領民も多いみたいだけど、流石に誘拐してきたなんて思いもしていない。
おそらく結婚などという方法にエミナの意思は介在していない。
リュードは怒りをごまかすように貼り付けた笑顔を浮かべて席を立った。
「いやいや、息子じゃなくて本人が結婚するんだとよ」
「はあっ!? キンミッコだってもう結構な年だろ?」
キンミッコやパノンという単語が聴こえてきて、大きな声で噂話をする男たちの方にリュードたちは意識を向けた。
「そうだけど何でも内々に結婚する準備を進めてたらしくて明日教会を貸し切って結婚式をやるんだって話だぞ」
「明日って……また急な話だな」
「そうだよな、トキュネスとの交渉だってもう3日後だしな」
「カシタコウに領地を返さなくていいように民のご機嫌取りの結婚じゃないのか?」
「確かに、その可能性あるな。だとしたらパノンの娘も可愛そうにな」
「ジジイと結婚するんだもん、何か事情があるんだろな」
手に力が入ってフォークがひん曲がる。
この結婚話、よく聞かなくても誰のことか分かる。
エミナの話だ。
ルフォンも怒りで据わった目でテーブルの料理を見つめている。
「ちょっといいか?」
「あ? なんだよ?」
どうしても気になることがあったので噂話をしている男たちのテーブルにリュードが座る。
「ちょっと頼みすぎちゃって、良かったら食べてくれないか?」
まだ手をつけてない皿を1つテーブルに置く。
先ほどまでは怖い顔をしていたリュードだけど今は柔らかに微笑んでみせている。
「へぇ……まあそういうなら」
食べきれないから料理をくれるなんて怪しい話であるがタダでもらえるならと男たちは料理を受け取った。
「さっきの会話聞こえててさ、1つ聞きたいんだがいいかな?」
「ああ、別にいいぞ。でも俺たちも噂以上のことは知らないぞ」
男たちが料理に手をつけるのを待ってリュードも質問する。
何が目的だろうと思っていたが噂話について答えるだけなら簡単なものである。
「どうしてパノンの娘と結婚すると民のご機嫌取りになるんですか?」
まだエミナがパノンの娘だと確定したものではないがタイミング的にパノンの娘がエミナである可能性は高い。
こんな状況なのだ、偶然であることなんてあり得ないとリュードは思っている。
ならばこの話はエミナとキンミッコというやつの結婚話ということになる。
この結婚話にエミナが誘拐された理由がある。
そうリュードは考えたのだ。
一から全部聞いていきたいところであるが男たちも細かくは知らなそうである。
でもどうにも男たちはキンミッコが人気取りでパノンと結婚しようとしていると言っていた。
そこが引っかかったのである。
「あんたよそ者か? ならしょうがねえか」
トキュネスでは汚れた貴族、カシタコウでは卑怯者なんて言われているパノン。
パノンはどこからも良くない言われ方をしている。
土地を奪い取った貴族なのであるからカシタコウ側から卑怯者と呼ばれている理由は分かるけれど、なぜトキュネスからもそんな呼び方をされているのか。
そこについても聞きたかったが話の腰も折れずにそのまま流されてしまった。
「だがパノンっての悪い奴らじゃなかったんだよ」
「良い人だったんですか?」
「そりゃあな。領地を奪った奴らだったが住んでる人のことはちゃんと考えてくれる人だったよ」
しかしトキュネスが奪い取った地域に住んでいてパノンと交流があった人はパノンのことを悪く言わないのだと男たちは言った。
どこから流れた噂なのかひどい人間だったような印象になっているけれど、実際のパノンはそんな悪く言われるような人物でなかったらしい。
トキュネスの領地となっているここを今はキンミッコが管理しているが、奪い取られた直後はパノンが支配していたのである。
その時にパノンは不安の大きい住民たちに丁寧に親切に接していた。
だからここの住人に限ってはパノンの根強い支持がある。
むしろ今ここを治めているキンミッコの方が評判がよろしくない。
「だが領主がパノンからキンミッコに代わってな……すっかり様変わりしちまった。あのクソ野郎、俺たちから搾取して自分の懐肥やしてやがるんだ」
「キンミッコの方が汚れた貴族っていう方が俺たちからしてみれば正しいぐらいだ」
そんな状況でトキュネスとカシタコウの領地返還の話し合いがもたれることになった。
どれほどの領地を返していくのかは交渉次第となった。
けれどキンミッコのせいで領民の不満は高くて全領地返還の方に領民の意見は大きかった。
支持がないとなるとこの領地を返す方に交渉が傾きやすくなる。
慌てたキンミッコが簡易的に支持を集める方法として支持のあるパノンの娘を取り込む、つまりは結婚するなんて方法を取ろうとしている。
というのが男の予想であった。
「ありがとうございます」
「なんでこんなこと知りたいか知らねぇがキンミッコに手を出そうなんて考えるなよ? あいつ金だけはあるから私兵も山ほど雇ってるんだ」
「ええわかってますよ」
少し酔っ払っているのかざっくりとした話だったけれどエミナが誘拐された理由が分かった。
キンミッコは支持の薄い自分の広告塔にエミナを利用して領民の理解を得て、さらに交渉相手であるヤノチの兄をヤノチで脅迫して交渉を有利に進めようとしている。
エミナもヤノチも同じ目的のために誘拐されていた。
男たちの話し振りを聞くに結婚に違和感を感じている領民も多いみたいだけど、流石に誘拐してきたなんて思いもしていない。
おそらく結婚などという方法にエミナの意思は介在していない。
リュードは怒りをごまかすように貼り付けた笑顔を浮かべて席を立った。