「あいつは俺にとって妹みたいなもんだからさ……」

 あおちゃんに生まれたもう一つの人格。彼は私たちより二歳上の男の子らしい。

 声は凄く低くなって、よく見ると筆跡も変わっている。本当に人格が変わっているんだってわかって……最初は受け止めるだけで精一杯だった。

 今まで気づかなかったのは、彼が元のあおちゃんの声も真似できるからだろう。

 もう一人と話すようになって、しばらくして。私は彼と協力するようになった。

 理由は……あおちゃんが、この世界からいなくなりたいと思っていることを知ったから。

「あいつが死にたがってる。もし俺じゃないとき、『ありがとう』とか言ってきたら全力で止めて欲しい」

 
 そう言われた矢先のありがとう、その一言。

 本当に怖かった。急に友達が消えるかもしれないって思ったら怖かった。

 そしてついに来たそのとき。私はあの日の電話で話したことを、一言一句逃さず覚えている。あおちゃん自身と話した電話。

「もしもし……?」

「っ……何で、電話してるんだろうね」

「あおちゃん! 何しようとしてる!?」

「ほら、今日はこんなに綺麗だよ。こんなとこから落ちたくらいじゃ死なないから」

 あおちゃんはビデオ通話にして、自分の家のベランダを移してきた。今、このスマホ越しの目の前で。あおちゃんは消えようとしている。

 それからは『じゃあね』と言って通話を切り続けるあおちゃんを止めるのみだった。

『あおちゃんがいなかったらどれだけの人が悲しむと思ってるの? 私は悲しいよ。私もいなくなりたくなるくらい悲しくなる』

『お願いだから生きてよ。まだ一緒に話してたいよ』

『皆んなあおちゃんが大好きだよ』

 気休めにしかならない言葉の羅列。とにかくそれを送り続けて、電話を鳴らし続けた。

 そして……

「海猫には敵わないな」

 その言葉と共に大きな音が聞こえた。

 心配して私は何度も声をかけた。何があったのか、わからなくて心配で。そう思ったのも束の間、低くてその頃聴き慣れていた声が耳に届いた。

「あっぶな。救世主の登場だぜ」

 そう言って現れた彼に唖然とする。普段ならくすりと笑ってしまう言葉でも、笑うことはできなかった。あおちゃんが気絶して、もう一つの人格が助けに来てくれたのだ。

 その瞬間、本当にホッとした。涙が出た。

 良かった。助かった。私は止めることができた。

 あおちゃんがずっと抱えてきた大きなもの。まだ一歩かもしれないけど止めれた。

 嬉しさと、安心。

 あのとき私が少しでも救えていたなら嬉しい。今でも忘れられない。あの日のことは。本当は五千字では足りないくらいに、ここに綴りたい出来事が沢山ある。