あれから一年以上が経過し、中学一年生の冬。

 ずっと仲良くしてきたのに気づかなかった。

 本当の本当の深いところに落ちるまで、私は気づいてあげられなかったんだ。

「海猫……さん?」

 頭を殴られたような衝撃を受けた。本当に何が起こったかわからなかった。ある日いつものようにあおちゃんに話しかけたら、不自然な反応をした。

 私のネームプレートを読んで、名前を尋ねてきた。

「うん、そうだよ?」

 何だか嫌な予感がして、すぐにいつも私、あおちゃんと過ごしている二人に声をかけた。

 あおちゃんの様子がおかしいと。二人も声をかけてみたら、返ってくるのは同じ反応。困惑しているようで、まるで私たちを忘れているような反応。

 そうだった。今でも鮮明に覚えている。

 あおちゃんはあのとき……記憶喪失だったということを。

 本当にびっくりした。今まで近くにはなかったその現象が目の前で起こっていた。

 どうしたらいいのか、って悩んで。私たちは一つ一つ教室の場所。人。色々と教えていった。

 「あの人知ってる」くらいのぼやっとした感じらしい。とにかく必死だった。あおちゃんが何に悩んでいるのかわからないまま、私たちはとにかくいつも通り笑顔でいることにした。
 
 次の日は休日。その夜、電話がかかってきた。

「家にね、海猫の電話番号があって……ごめん。急にかけて」

「明日になったら思い出すかなって。全部思い出せると思ってたけど……戻らなくて」

「何で忘れちゃったんだろう……」

 あおちゃんが抱えていたもの。それを私が知ることになる。

「前のあおがね、思っていたことなんだけど……びっくりするけど聞いたら忘れて欲しい」

「あおは……海猫のことが好きだったみたい」

 告げられた事実に、また驚いた。

 私のことを好きでいてくれた。それは……恋愛として。

『女の子』だと思っていたあおちゃんは性同一性障害で、二重人格。男の子になりたいと思っている子だった。そしてその悩みによってもう一つ人格が生まれている。

 沢山の情報で頭がパニックになったけど……その後のことは本当に忘れられない。

 しばらくしてあおちゃんの記憶は戻ったけど、それと入れ替わるように私はもう一つの人格と話すようになった。