「あっ、おはよ椛。」 


リビングの白い引き戸を開けると、私に気づいた光杞が笑顔で声をかけてきた。



「おはよう。桜也もおはよ。」


キッチンで、多分朝ご飯を作ってる桜也にも声をかけた。
 



彼女たちの名前は、京咲光杞と本那桜也。




地元の家が近所だった幼馴染だ。


私たちは地元の高校卒業後上京して、当時お金も少なかったためルームシェアをすることにした。



そして今、大学卒業して自分でお金を稼げるようになった今でも私たちは離れることなくルームシェアしているのだ。





「おはよう、今日は遅かったな。」

「えっ……?」


桜也に言われて時計を見る。


確かに、今日は時計なんて見ないで逃げるように降りてきたからなぁ。



「わっ、やば。」

今時計は短い針が9近く、つまりもう9時少し前ということだ。




「もう行くの?」

光杞が私のリアクションがデカすぎたのか驚いたように尋ねてくる。



「んー、まぁそんな早いわけじゃないけどいつもよりめっちゃ遅いからびっくりしただけ。」


「あぁーそういうことね。…でも、休日までお疲れ様。」

肩をグルグルさせながら、言ってくる。




絶対、私より光杞の方が大変だし頑張ってるのに。




「光杞こそ。進捗はどう?」


「んー?まぁ、そこそこ。だけどマジ疲れたぁ…。」


バタンと力が一気に抜けたようにソファーに倒れかかった。


「光杞は、すごいよ。…ずっと、追いかけていた夢を叶えてるんだもん。」



そう、光杞は兄妹の影響で昔から建築家になりたいって言っていた。



そんな彼女はまっすぐ努力だけして前に突き進み、今では仕事もたくさん任されているらしい。



「んーん、楽しいだけだよ。無我夢中ってだけ。それなら、よっぽど編集者として毎日動き回ってる椛のほうがすごいんじゃない?」


こうやって、どれだけ褒めても謙遜する光杞。


昔からおちゃめな子供っぽい一面もあるが、基本大人っぽく私のお姉ちゃん的な存在なのだ。




そんな光杞は、ダメダメな私をいつも褒めてくれる。 


何かあるわけでもないのに。




光杞、私はただ、逃げているだけだよ。