柚燈side
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「……ハハッ。『……ねぇ、柚燈なんでしょう?……何で、逃げるの?』か。」 



俺は、耳を澄ませ椛の足音がしなくなったのを聞いてから乾いた笑いをこぼした。



……機能しない目からは、涙がこぼれて落ちてしまっていた。



そんな涙は切なく海色を映してこぼれ落ちた。


 

……あんな行動をとる椛なんて、初めて見たかもしれない。 


俺はさっきの彼女に触れられた強さと言葉を思い出していた。




地元の伊炉里島にいたときからの幼馴染の椛は昔っからどちらかと言うとオドオドした大人しいタイプの子だった。



でも、仲良かった俺らの前ではよく笑って、

…………ずば抜けて芸術や文章の才能があった。



ずっと、そんな彼女に憧れ、いつの間にかそれが恋愛感情に変わっていた。