「……。待って…、椛…!」
「えっ、……?」
私は柚燈のクールさが欠けたような声に戸惑って、振り向いた。
「どうしたの?柚燈。」
「……。……今度、全部話すから。」
と呟きながら慣れた手つきで、ポケットの中から名刺のような小さな紙を差し出してきた。
「………っ、…分かった。」
と頷いて紙を受け取った。
紙を受け取り、見てみるとそこには、電番とメアド、LINEのIDが書いてあった。
「……じゃあね。引き止めてごめん。」
そう言って、私の進行方向とは逆の坂の下へ足早に去っていった。
静かに去っていく姿は本当に人間じゃなく幽霊や妖精のよう。
……柚燈。
あなたは、1人で何を隠して消えたの……?
そう心の中で呟くと、柚燈を見つけた私を責めるみたいに突き刺すような冷たい風が吹き立てた。