「………。そーだね。これは視覚障害者が使う白杖。」



諦めたように普通に話し始めた。



「本当にあなたは、七瀬柚燈……?」



冬の海が大きな波を立て冷たい風が責め立てるように吹く中、私の声だけがあたりに響く。



柚燈なんでしょ?なんて、堂々と引き止めておいて今頃心配して確認する自分は普通にバカだと思う。




「そーだよ。俺は七瀬柚燈。1998年12月18日生まれの25歳。地元は伊炉里島で、3人の幼馴染、風乃椛と京咲光杞と本那桜也がいた。……これで、俺だって分かった?」



これで、視覚障害のある彼が柚燈だって、証明された。





混乱した頭で柚燈を見上げるが、私の方を向かないで、俯いたまま話し始めたから、柚燈が何を考えているかは全くわからない。





だから…、何を聞いていいかわからない。




「別になんでも聞いていーよ。」 




私の方を向いていないのに、私の心を読んだよ うに柚燈が言った。




「……。…柚燈は、目が見えないの……?」



迷った末、もう1度聞いた。


この言葉は半分自分に言い聞かせるようでもあった。




「そうだよ。……見えなくなった。」



「……、ど、うして……?今まで……っ!!」

 

そう……、私の1番の疑問はここ。





昔からずっと、柚燈は目が見えていたはずだ。
いつ、どうして見えなくなったのか。




「……。こうなるから…、だから椛の前から姿を消したんだよ。」



顔は見えなくても声だけで、悔しそうで苦しいのが伝わってくる。



そんないつもと違う柚燈を見たせいで、なおさら柚燈の言う、こうなるがよく分からなかった。