「あ」

「姉様――――!!!!!! げほっ」

土曜日、涙子とともに花園の家に戻った琴理は、玄関まで出てきていた愛理の名前を呼ぼうとしたのだが愛理に先手を打たれて、挙句咳きこまれて焦って駆け寄った。

「愛理っ。落ち着きなさい、騒いではいけません!」

「ご、ごめんなさ、ね、さま……ゴホッ」

「もう喋るんじゃありません! 部屋に戻りますよ」

普段着姿に羽織をかけた愛理を、琴理は抱き上げた。姫抱きに。

「こ、琴理様!?」

「涙子さん、すみませんが愛理の部屋に直行します。みんな、心護様付きの涙子さんです。ここではわたしについてもらいますので」

「は」

愛理付きの使用人がひとりと、使用人を取り仕切っている使用人頭が出てきていたので琴理はそう言っておいた。

「旦那様と奥様は用事が少し長引いているようですが、じきにご帰宅なさいます」

「わかりました。ではそれまで愛理の部屋にいます」

「琴理お嬢様、今男性の使用人を――」

「大丈夫ですよ。いつもこうでしたでしょう?」

愛理付きは女性の使用人なので、さすがに愛理をかかえられない。

だが、今までの琴理は愛理を抱き上げることが当たり前だった。

愛理は愛理で、大好きな姉に姫抱きされて嬉しそうな顔をしている。先ほどまで咳きこんでいたけれど。

いきなり妹を抱き上げた琴理に驚いた涙子だったが、琴理の紹介を受けて早速愛理付きの使用人と挨拶をすませた。

琴理は愛理を抱えて、慣れ親しんだ廊下を歩く。

「愛理、今日は部屋から出ていいのですか?」

「姉様が帰っていらっしゃると聞いてから調子いいんです」

「それでもあんな大声を出しては駄目でしょう」

「ごめんなさーい」

謝りながらも、えへへ、と顔がゆるんでいる愛理。

相当琴理に懐いているのだと、二人の後ろを歩く涙子にもわかった。