「ひとつにつきひとつ質問に答えるなら、いいですよ」

「いいぜー。こちとら暇と減った腹を持て余してっからな」

横に寝そべるような恰好で空中に浮遊するクマ。

琴理は机に足を向けた。

琴理も甘いものは好きだ。勉強の休憩に摂ることもある。今も、小さな箱のチョコがあった。

(チョコじゃないといけないのでしょうか……まあ、ほかのものを与えて、別の味に執着されても面倒だからやめておきましょう)

一瞬、クッキーとかでもいいのでは? と思ったが、即座に自分の思考を切り捨てた。

これ以上自分の手で面倒ごとを増やしてどうする。

琴理は椅子に腰かけて、クマの方を向いた。

「どうぞ。一粒につき、解答はひとつです」

「さっさと寄越せ」

「ではまず――どうしてわたしが呼びかけると出てくるのですか?」

「あ? 意味わかんねえ質問だな?」

「簡単です。わたしが呼んだら出てくる、という『契約』は結んだ覚えがありません。それでもわたしがクマに呼びかけると必ず出てくる。何故ですか?」

「気分」

「………」

一蹴だった。

「ほら、答えてやったんだからそいつを寄越せ」

「………」

(くっ……! 悔しい、ですが……チョコと交換すると言ったのはわたしです……)

「……一粒ですよ」

「んじゃ、さっさと次の質問出せ」

クマは羽をひょいっと動かすと、触れていないのにチョコが空中浮遊して、小鳥姿のクマの口へ飛び込んだ。

「あ、もう質問はないです」

「あ? んでだよ。訊きたいことあるから持ちかけて来たんじゃねーの?」

「さっきのことを訊きたかっただけなんで、終わりです」

そう言って、琴理はチョコを箱に仕舞う。

それは、クマから収穫のある返事がなかったことへの意趣返しではなく、最初からそのつもりで話しかけただけだったからだ。

「ちぇー。せっかく食えると思ったのによー」

クマが、また横八の字浮遊を始めた。