「では本日はここまでに致しましょう。そろそろ心護様が帰ってくる時間です。食事の準備が出来ましたら、またお伺いしますね」

「はい。では部屋で学校の課題などを」

応接間を勉強部屋として使っているので、琴理は聞いたことを書き留めた手帳を手に部屋に戻った。

ドアを閉めて、ふっと息を吐く。

「……クマ」

「おう? なんだどうした面白いな」

琴理に応じるように影から出てきた小鳥姿のクマ。

数字の八の字を横に描くように、羽をまったく動かさずに重力を無視した飛び方をしている。

琴理は険しい顔でクマを見る。

「あなた、何か話していないことあります?」

「あるに決まってんじゃねーか。なんで悪魔が全部話すと思ってる。性善説は悪魔にゃねーんだよ」

ケケケと笑いながら飛び続けるクマ。

「そもそも、何でおれがお前に全部話さなきゃなんねーんだ? お嬢様だからか? おう?」

「………」

琴理は黙った。

この小鳥の頭を掴んでぶん投げたい。

的確に言われると痛いところを突いてくるのは一体なんなんだ。

「……いえ、そういうことではないですね」

「んじゃあれ寄越せ。うまいやつ」

「………」

催促するように、クマが羽をちょいちょいと動かす。

琴理はジト目になってクマを見た。

(なんだかいつもあしらわれていて腹が立ってきましたね……)