(……その点も心護様がどういうお考えか、訊けるといいのですが……)

親しく話してくれても、琴理からしたら心護は格上の存在なわけで。

対等になりたい、と心護は言う。

わたしは宮旭日様に嫁ぐ身、と琴理は思っている。

胸の中が、ぐるっとした。

(……変わるのは、わたしからかもしれませんね……)

琴理がふっと顔をあげると、資料束に目を落としている詩が目に入った。

続けざまに背筋が総毛だった気がして、琴理は右手を心臓のあたりにあてる。

(……淋里様のこと……)

詩に相談、してもいいだろうか。

現在琴理が頼れる人の中では、詩が一番話やすい。

だが。

(……話すなと言われました。どうしてクマのことを知っているかも含めて、謎が多すぎる方です。大事な人を傷つけるとも言っていた、あの言葉……本当にやってしまうお方かもしれません……)

琴理の大事な人――愛理を筆頭に、たくさんいる。

両親、花薗の人たち、ここに来てから世話になっている、公一、詩、涙子、主彦、東二……当主夫妻に、心護。

誰一人として、傷つけられて平気でいられるわけがない。

ならば琴理は、誰にも言うことは出来ない。

(こんなに早く言えないことが出来てしまうなんて……)

申し訳ない思いに、胸がしめつけられる。

思考に沈んでいたところに、「琴理様」と声がかかって、琴理は顔をあげた。

「今週の土曜日、花薗様のお邸(やしき)に寄られますか?」

「土曜日、ですか?」

詩になんの説明もなく言われて、琴理は瞬いた。

「はい。涙子が調整中なのですが、直近では土曜日が予定を入れられそうとのことです。愛理様もお邸にいらっしゃる日だとか」

「ぜひお願いします!」

食い気味に反応した琴理に、詩は軽く首を横に振った。

「琴理様、わたくしどもに『お願い』ではありませんよ」

そう言われて意味に気づく。

琴理は背筋を正してから再び詩を見た。

「……双方に問題がなければ、その日で」

「承知いたしました」

詩は恭しくこうべを垂れる。