「淋里兄さんは、父との跡目争いの時からは、力は衰えている。でなければ、本来は俺より強い人だ」
「心護様より……」
琴理はにわかには信じがたかった。
琴理の世代からしてみたら心護は間違いなく『最強退鬼師』で、その呼び名を疑う者はいない。
だが、琴理より上の世代――新里と淋里の跡目争いを知っている人たちは、心護を認めつつも淋里を『敗者』には出来ないのか。
「俺も認めるのは癪だけどな。何があって力を失い始めたのかはわからないし、本人は秘密主義の人だし――でも、それでもなお支持されている。それって、相当のことだよ」
(………)
圧倒的。その言葉が琴理の頭に浮かんだ。
(わたしにとっての圧倒的は心護様ですが、その前を知る方からしたら、また違うのでしょう……)
琴理の知らない、新里と淋里の争いがあった頃。
(……花園に帰ったら、父様に訊いてみましょうか……)
花薗の父ならば、知っていることもあるかもしれない。
心護の眼差しが鋭くなった。
「だからといって、跡目を淋里兄さんに譲るつもりもない。俺は常に強者でいるつもりだ」
「――はい」
宮旭日を名実ともに継ぐのは心護だ。
琴理もそう思っているし、淋里と会って、この人に跡目を渡してはいけないとも思った。
――すぐに飽きる、と言ったときの顔が、その対象が人間のことを考えている顔ではなかったから。
「わたしも、心護様に相応しく思っていただけるよう、精進いたします」
琴理の宣言に心護は少しだけ目を見開いてから、口元をほころばせた。
「そんなこと言われたら、嬉しいしかないな」
「は、はいっ」
――心護に相応しいと思われたいなんて大層なことは言わないけれど、と、つい昨日思ったばかりの琴理が、今日はそう思われたいと感じた。
ひとつの成長と、ひとつの真実。
宮旭日の地で、琴理は少しずつ強くなっていた。
――だが、心配は当たってしまう。手薄になっている隙をついてくる者は、いつの時代にもあった。
「おかえり、琴理ちゃん」
「淋里――さま?」
琴理が学校を出たところで待ち構えていたのは、公一や詩の車ではなく、淋里の姿だった。