「それから、琴理の花嫁姿を一番近くで見られるのは、俺でありたい」
「え」
「すまないごめん悪い調子に乗った聞かなかったことにしてくれ」
心護がものすごく怖い――真剣な顔で、そして早口で言った。
一瞬呆気に取られた琴理だが、頬が熱くなるのを感じて視線を下げた。
(聞かなかったことに……してはいけない気がします……)
「申し訳ありません」
そう言って琴理は心護に向かって頭を下げた。
「いや、謝ることじゃ――」
「聞かなかったことに、したくないです」
「え……」
「すみません、なんだか記憶から消したくなくて……ですね」
「あ、そ、そうか……」
「はい……」
琴理と心護が二人してうつむき気味になって汗を飛ばしているので、それまで黙って書記を務めていた涙子は散々にやにやした後、「こほん」と咳ばらいをした。
それに心護がはっとして、「んん」と喉に手をあてた。
「つ、続きを話そう。とりあえず今はその三つだな」
「はい」
琴理もバツが悪くて、こくこくと何度もうなずく。
直後、心護の眼差しが冷えた光になった。
「……それから、昨日淋里兄さんとも会ったって聞いたんだけど……」
「はい。お会いしました」
昨日は届け物の件を優先して話したので、琴理から心護にその話はしていなかった。
だが、公一や主彦たちから話があがって当然だ。
心護が心配そうに身を乗り出してきた。
「……何かされなかったか?」
それは涙子から聞いた類の心配だろう。
「特には……」
そして琴理自身から返事を聞いて安心したのか、心護の肩が少し下がった。