「はい」
クマの件は、琴理にも被害がいってしまうから暴力には訴えられない。
クマと琴理の間で成立してしまった『契約』に則って、どうにか離れさせる方法を見つけねばならない。
「それから、琴理に届いた悪質な届け物……」
「……はい」
「今、それぞれに対して式に捜索をさせている。ここで重要なのが……」
「はい」
心護の考えを聞けるチャンスだ、と思い、琴理も表情を引き締める。
心護がどういう考えを持っているのか、琴理は出来るだけ把握したかった。
しかし次に聞こえてきたのはきょとんとする言葉だった。
「琴理が無事でいることだ」
「……わたし、ですか?」
間の抜けた声でそう返した琴理に、心護は軽くうなずきながら答える。
「そう。妹君の件は除外しても、クマと届け物の件は、琴理に危害を与えることが目的の可能性もある。結果として琴理を害することが目的や、達成事項となってしまっているのなら、まず琴理が無事であるってのは大事なことだと思う。琴理の学内に、生徒で護衛は置けない話は聞いているか?」
「はい」
琴理は、心護への質問は心護が話し終わってからにしようと決めて答える。
「琴理の学校には、教員・職員で宮旭日の者を入れることも考えていきたい。それが可能となるには少しだけ時間がかかるから、それまでは特に用心してほしい」
「わかりました」
琴理が宮旭日の家に住むようになったのは本当に突然のことだったから、準備するのに時間がかかるのは当然だ。
(自分のことは自分で守らないと、ですね)
「心護様、質問をよろしいでしょうか」
「うん」
「心護様は、解決法に、どういった展開を求めている、などありますでしょう?」
「求めている展開?」
「はい。結果的に、こうなる未来を描いている、など……」
「琴理が傷一つなく無事であること」
即答した心護は、「うん」と自分でうなずいた。
「それが一番だな。うん」
やはり自分に言っているような口ぶりだ。
琴理は、淋里が口にした『溺愛』の意味をわかりかけていた……。