「………」
心護の言葉はよく聞くありふれたもののようでいて、すとん、と琴理の心に落ちた。
その言葉を誰から聞くかにもよるのだろうか。
琴理はすぐに(確かに……)と納得した。
(不思議です……わたしの中に、言葉が溶けていくような……)
説得力、といってしまえば固く聞こえるけれど、心護の言葉には反論することが幼稚だと思わせる力があった。
言い終わってから心護は、目元をやわらかくする。
そして軽く机から体を離して、向かい合って座る琴理との間に余裕を持たせた。
「だからまあ、気楽に考えてほしい。琴理は家族の誰かが問題を抱えていたら、『あなたのことなんだから一人で解決しなさい』、なんて言えるか?」
その言葉も、琴理には否定出来なかった。
自分があまりに『自分』しか見ていなかったことに気づいた琴理は、唇を噛んだ。
「……言えません。言いません。手を、出してしまいます」
父が、母が、愛理が、花薗の家にいる人たちがトラブルを抱えていたら、心配するし、自分に出来ることがあるなら手を差し出す。
自分に出来ることがなくても、どうにかする方法を一緒に探すだろう。
「だろ? 俺も、その立場なわけ。……まだ言いたいことあるか?」
優しく問いかける心護。
心護は琴理に対して、決して強く言わない。
圧倒するような言い方をしないし、いつも琴理の心を思いやった言葉をくれる。
「……ありません。すみません、とても幼稚なことを言いました」
琴理は深く頭を下げた。心護がすぐに「顔をあげて」と言う。
「俺もまだまだ幼稚だよ。だからお互い、迷惑かけて、かけられて、一緒に成長していけたらと思う」
これで心護が幼稚なら、自分は赤ちゃんだ。そんな自分を恥じて、琴理は深く答えた。
「……はい」
琴理の返事に安心したらしい心護は、少し背もたれに寄りかかるように座っていたのを、座り直して背筋を伸ばした。
「じゃあ話を戻そう。第二に、クマの対処法を探すこと。厳密に言えば、害を成させずに悪魔の世界に返らせる方法を見つけることだな」