「琴理様が花園様のお邸(やしき)にお帰りになるときは、私が同行いたしますね」

「よろしくお願いします」

笑顔の涙子に琴理がうなずくと、詩がまた涙子へ視線をやった。

「それから涙子、心護様へもお話しておくのよ」

「は……い」

詩に言われて、にこやかにうなずきかけた涙子が急に沈んでしまった。

「涙子さん?」

「……心して、取り掛かります」

「?」

琴理の里帰りを、心護が阻害してくる可能性を詩も涙子も考えて頭を悩ませた。

心護のことだから、琴理が帰って来なくなるかもしれないことを心配することは容易に想像がついた。

琴理がまだ、たまに実家に帰るくらいは……と軽い気持ちでいられたのは、心護のそれこそ琴理への溺愛を知らないがゆえだった。



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「琴理、少し確認をしよう」

翌月曜日の朝。

登校前に心護と二人で朝食を摂っているときに、心護が言った。

公一が言いくるめてくれたので、食事中は琴理の影にクマはいない。

応接間で、公一と主彦に監視されながらチョコレートを食べているところだ。

公一と主彦は、琴理たちの食事のたびに、何かクマから情報を得られないかと頑張っている。

だが、今のところクマと琴理の繋がりを解除する有益な情報はない。

のらりくらりとかわされていた。

「はい。何についてですか?」

「現状、俺たちが解決すべきことだ。涙子、書き出してくれるか」

「かしこまりました」

心護に指示をされた涙子が、手帳を取り出す。