琴理が潜めた声で尋ねると、涙子は何度か瞬いた。
「どこへ……ですか?」
「え、……と、……交際、などは……?」
涙子の、冗談では言っていない言葉に、琴理は少し口ごもった。
年も近く同じ場所で働いているなら、そういうことになっても不思議ではない。
昼のときは自分の恋愛に興味がないと言っていたが、隠れてこっそり付き合っていたりは……。
「交際……? 私と主彦が、ですか……?」
なおも涙子は、不思議そうに眼をぱちぱちさせている。
そのとき琴理の袖が、そっと詩に引かれた。
「琴理様、その件につきましては、後ほど……」
コソコソと詩が困った顔で言うので、琴理はこくりとうなずいた。
「ええ……? 主彦……?」
なんだか涙子が悩みだしてしまった。
「涙子さん、もう大丈夫です。それで、わたしはシスコンですので、妹に逢いたくてたまらなくなって……」
「妹様が恋しいあまりの苦悩だったのですね。では今後の琴理様のご予定は、定期的に花園様のお邸(やしき)へ帰れるよう組みましょうか」
涙子の提案に、琴理ははっと顔をあげた。
「琴理様、いかがですか?」
詩に問われて、琴理は大きく頭を上下させる。
「はい……! 妹に少し会えるだけでも嬉しいです……!」
愛理に会える日が決まっているなら、なおさら頑張れる。
「ではそのスケジューリングは涙子に任せます。琴理様のご予定と花園様のご予定、双方を考慮して組むように」
「はい」
涙子が詩にはっきりと答えた。
涙子が将来的に琴理につくために、涙子自身が学んでいくことも詩が指導しているとわかる。