「ええっ!? こ、琴理様、ここがお嫌になってしまいましたか……!?」
説明不足。詩の脳裏にその四文字がよぎった。
「違うのよ涙子、」
「琴理様! 確かに今日は衝撃が大きいことばかりでしたが……実家に帰らせていただきますなんて仰らないでください……!」
説明しようとした詩を遮って、涙子が琴理の傍に膝をついた。今にも泣きそうな顔で。
それを見た琴理は、がんばってほほ笑んだ。
「そんなこと言いませんから、ご心配なさらないでください。さっきのはちょっと、妹に会いたくなって……」
「妹様?」
――これ以上涙子に躊躇していると誤解が誤解を呼びそうだったのと、琴理からそれを明かしてくれたので詩も腹をくくった。
「涙子、琴理様と妹の愛理様は、大変仲がよろしいらしいの。お互いを想い合える御姉妹なの」
「それで妹様に会いたくなられたのですね……」
「はい、愛理はわたしの推しです」
とても真剣な顔で琴理がぶっちゃけた。
詩はそこまでとは……と額に手をやった。
それを聞いた心護の反応が心配すぎるからだ。
琴理一筋十数年の心護が、琴理の妹を敵視しなければいいが……。
「素敵なごきょうだいですね!」
詩の胃がキリキリする一方、涙子は純粋に受け止めていた。
憧れの眼差しを琴理に向ける。
「私はきょうだいがいないので……」
「主彦さんとはいとこ同士ですよね?」
「はい。確かに主彦とはきょうだいみたいに育ちましたが……きょうだいというよりは同志、なんですよね」
「同志?」
琴理が返すと、涙子はとても誇らしげに胸を張った。
「宮旭日家にお仕えするべく、お互い切磋琢磨してきましたので」
涙子の努力がすさまじいことは、今日話してわかっていた。
琴理にとってもその根性と気持ちは、見習うべきものだ。
(なるほど……)
……そこで、ちょっとだけ気になっていたことがある。訊いてもいいでしょうか? 訊いてみたいです……と、刹那の思考ののちにこそっと口を開いた。
「ちなみに……主彦さんとお付き合いなどは……」