その眼差しは、深く同情しているようだ。

「……清廉に生きている人間も、決して恨みを買わないってわけじゃない。むしろその優等生さで嫉妬の念を買ってしまうことも多い……」

……なんだか過大評価されていることがわかった琴理は、慌てて手を振った。

「あ、あの、わたしそんな清廉潔白な人間じゃないのですが……」

「謙遜するな、琴理」

心護にわかっているよ顔をされたが、琴理は『全然わかってないですね』と思った。

(……はっ! こういう心護様の誤解を解くのもお役目なのですね……!)

長い勉強の果てに琴理は、そう考えるクセがついてしまっていた。『当主の妻としての役目をこなすことが、自分の人生だ』と。

背筋を正す。

「心護様、わたしは未熟者です。どこでどなたに不快な思いをさせてしまっているかわかりません。この届け物の件も、わたしの配慮の足りなさゆえということも考えられます。なので、わたしに一任していただけないでしょうか? ご当主夫妻様へどうお知らせするかは、心護様に従いますので……」

「琴理」

心護の鋭い声が、琴理の言葉を止めた。

自分の膝の上にそろえた手に向けていた顔をあげれば、心護は少し怒ったような顔をしていた。

「しん――」

「一人で背負うな」

「え……」

「背負うな、とは言わない。俺たちの立場は、たくさんのものを背負っていかなければならない。だから、一人で背負うな」

「………」

「それから、俺は琴理を臣下にしたいわけじゃない。従うとかは、言わないでほしい」

言葉を口にしてから心護の顔は、少し怒っていたように見えたものから、寂しげなものに変わった。

(わたし、間違えました……)

琴理ははっとした。

選択肢を――言葉を間違えた。

……だが頭で間違えたことはわかっても、心護の言葉の意味を心で理解はしていなかった。

心護が「従うとかは、言わないでほしい」と言った、言葉の真正面からの意味を。