「た、体育の教師とか、部活のコーチとか!」
「涙子、座学での勉強がほとんど出来なくて教員免許持ってないだろ。コーチも日中学内に居続けるのは無理があるんじゃないか?」
「………」
主彦に指摘された涙子がだんだんと力を失って、膝を抱えるように座り込んだ。
「私は……役立たずです……」
「そんなことありません! わたし、涙子さんには助けていただいてばかりですよっ!」
落ち込んでしまった涙子の前に琴理もしゃがみこんで、その両肩に手を置く。
「本当に、涙子さんが助けてくれなかったら……、って場面多いです。それと、わたしも強くなります。涙子さんに武術の心得があるのなら、教えてもらえませんか? わたしの師匠になってください」
琴理が穏やかな顔で言うと、涙子は目を潤ませた。
「琴理様……」
そしてがしっと琴理の両手を取る。
「この鳴上涙子、しかと承りました! 琴理様をこの国一番の強者にしてみせます!」
「お前がこの国一番の、とかじゃないんだから無理だろ」
「茶々をはさまない! そんなことは百も承知で言ってるの!」
涙子と主彦が言い合っているが、琴理は策がひとつ見つかって安心していた。
「では涙子さんはわたしの師匠ということで、よろしくお願いします」
「はい!!!」
元気よく返事をする涙子。主彦はすすすっと詩の隣へ移動した。
「あの詩様……」
「言わなくてもわかってるわ、主彦。心護様が暴れるかもしれないことは承知しておいてね」
「ですよね……」
仲良くしている琴理と涙子を見て、心護はどう思うだろうか。主彦は一人ため息をついた。
「でも、琴理様が大らかな方で本当によかったわ……」
「はい。琴理様、器が大きいですね」
使用人二人は、深くうなずきあった。