「いざとなれば私が潜入します! そうだ、職員枠でいけばいいんです!」

高らかに宣言した涙子だが、主彦が眉を寄せた。

「それはそうかもしれないけど……心護様が嫌がったからナシになっただろ?」

難しい顔で言う主彦に、琴理が顔を向ける。

「職員枠って、教師として入るってことですよね?」

「はい。ほかにも学内にいられる立場があればそこに入るつもりだったのですが、心護様が職員にまで手を加えたくないとい仰って、取りやめになった話なんです。まだ生徒として入る方が心護様としては許容もできたようなんですが……」

「それは現実的には難しかった、と」

なるほど、と心護を考え方をひとつ知って、琴理はうなずいた。

「そうです。琴理様の学校は女子高ですから、涙子が事務員などとして入ることも選択肢ではあります。ありますが……」

「なにか、問題が?」

主彦の説明は歯切れが悪く、琴理は主彦と涙子を交互に見た。

琴理は気づかなかったが、琴理の後ろでは詩が糸目になっていた。何かを観念したように。

「……涙子は書類仕事が大の苦手なんです」

「……書類仕事?」

咄嗟にはその言葉がどこに繋がるのかわからなかった琴理は首を傾げる。

そこへ涙子が挙手して会話に入ってきた。

「か、体を動かすことは得意です! 琴理様をお守りできます!」

「この通り、はっきり言って武術は強いです。退鬼師としても。ですがその……使用人として動き回るのも大丈夫なんですけど、椅子に座って書類仕事や計算をするのがどうにも……」

主彦が頭痛を抱えたみたいに頭に手をやりながら言った。詩も、あきらめに様子になっている。

つまり涙子は、体力に全振りということだ。