「……詩さん、本当に本当に、大変失礼なことを訊いてしまいますが、琴歌様の妹御としてお聞きしたいのですが……」
詩は、皆まで言わなくともわかったようだ。
琴理の言葉にこくりとうなずく。
「姉や義兄に、身体的な問題はありませんでした。幹部格の家には子どもが生まれていますが、心護様に年近い者はいない……これはひとつ、心護様の襲名に反対する者の主張になってしまっています。心護様によくないものがある、そのせいだ、などと……」
言いがかりもいいとこだ。と、琴理は一蹴したい気持ちになったが、名家の跡取りとなればほころびを狙う者がいるのも珍しいことではない。
少しでも付け入る隙があれば、足を掴んで引きずりおろす。琴理は、そんな輩から心護を護ることも役目だと教えられてきた。
(これが、花薗で学んできたことを生かす機会なんですね……!)
心の中でこぶしを握った。
「詩さん、今度、淋里様についておられる方たちの情報を共有していただけますか?」
「はい」
「わたしの護衛の件は、一度心護様にご報告してから考えようと思います。わたしが強くなるのもひとつの手ですので、宮旭日家に関わる方から、武術の稽古をつけてもらうようお願いできますか?」
「琴理様が前線に立つおつもりですか!?」
「いえ、前線に立つというよりは万が一に備えて……」
「く……っ! 私が琴理様と同い年に生まれていたら……!」
「涙子、それはご両親が本気で悔やんでいらっしゃるから口にしちゃだめよ」
「……取り乱しました」
こぶしを握った涙子を詩が一喝した。涙子は体の前で手を揃えて目を閉じる。
両親を傷つけてしまう言葉だと、涙子自身理解しているようだ。
祝福される命ばかりではないことは、琴理も承知しているつもりだ。
少なくとも、自分と愛理は、父を慕っていた人物には憎まれている。
(あれ? わたし……?)
今、何かが頭をかすめた。……ような気がしたのだが。