「何かありましたか?」
主彦が言うので、琴理は今手にしていた写真の裏側を見せた。
写真側は、通学路の琴理を後ろから撮ったもの。
「……うわ……」
主彦が引きつった声を出した。
そこには、それだけの威力があったのだ。
「これは……」
「琴理様? 画面に映してもよろしいものですか?」
「はい……」
琴理の声も震えている。主彦と同時にそれを見た涙子は、大きく目を見開いている。
そして画面に映すと同時に、詩もそれを見た。
――血のような朱い色で書かれた、『呪』ひともじだった。
「……」
「わたしのストーカーというより、わたしにあるのは恨みですよね……あっ」
琴理が小さく声をあげた。
確かに手に持っていた写真が、ふっと消えてしまったからだ。
『………』
刹那、沈黙が落ちた。
状況を理解するのに、一秒はかかった。
「――全部ありません」
すぐに主彦が箱を確認して声をあげた。
「本当にどこにもない?」
詩が主彦に顔を向けると、主彦はこくりとうなずく。
「……わたしに恨みのある、術師の関係者……」
小さくつぶやいた琴理に、詩が反応した。
「決めつけるのは早計ですが、可能性のひとつとして考慮すべきですね。一般人が術師を頼ったことも考えられるかと」
――それはまさに、琴理の母の件と同じ状況だ。排除できる可能性ではない。
きゅっと、胸が痛くなる。
「まあ心配すんなや。娘が呪いにかかったわけじゃねーよ」
能天気な声がしたかと思うと、ひょこ、と、小鳥姿のクマが琴理の影から顔をのぞかせていた。