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「じゃあ琴理、俺は仕事に行って来るから、今日はまず涙子たちに敷地内の案内してもらっていてくれ」

「はい。お気遣いありがとうございます」

離れの玄関で、玄関前につけられた車に乗り込む準備をしている心護が、琴理にそう言った。

高校生ではあるが退鬼師としては独り立ちしている心護は、一人で仕事を請けて動くそうだ。

「何かあったら、すぐに詩さんに言うようにして。そうすれば俺に――……いや、琴理今スマホ持ってる?」

「はい。ここに」

ポケットに入れていた携帯電話を取り出す。

「俺の連絡先、入れといて」

「は、はいっ。ではわたしの方も……」

二人のやり取りを、公一と詩が微笑ましく見ている。

涙子や主彦、東二たちは、使用人の少ないこの屋敷では忙しなく働いていて、今この場にはいなかった。

離れの主である心護自身が、『主人』という態度で畏まられるのが苦手で、大仰な見送りや出迎えは控えているそうだ。

琴理がやってきたとき全員で出迎えたのは特別なことだと公一から聞いた。

「じゃあ、何かあったらすぐに連絡して。うちでも、決して無理はしないように」

「はい。お気をつけていってらっしゃいませ。……心護様?」

琴理が見送りの言葉を口にすると、心護は両手で顔を覆ってしまった。

「琴理様、お気になさらずに。いつもの発作です」

「いつも発作起こしてるんですか!? 大丈夫ですか!?」

詩の言葉に琴理が驚愕していると、公一がため息をついた。

「どうせ『新婚みたい』とか思って勝手に恥ずかしいけど嬉しくなってるだけですよ、琴理様。本気で気にしないでください」

「公一さんそういうこと言わないで」

「あ……はは……」

公一と心護のやり取りに、琴理は乾いた笑いを浮かべるしかない。

心護の言動は琴理にとっていちいち『何故そうなる』というもので占められている気がする。