そう、この大人しそうな琴歌も、立派な退鬼師なのだ。
線の細い見た目ながら、退鬼の現場で辣腕(らつわん)を振るう姿からついたあだ名は『凶刃姫(きょうじんひめ)』。
退鬼師の中でもトップレベルの実力者だ。
「はい。心護様に助けていただきました」
そう言って、琴理は公一の言葉を思い出した。
『まずクマのことは伏せます。若君とは、たまたま逢って連れてこられたという形にしましょう。琴理様が相手なら若君の行動としておかしいところはありません』
そう思うことをおかしいと思ってほしい、と思ったが、琴理の立場で言えることではなかったのでうなずくしかなかった。
母の琴歌が、頬に手を当ててほうっと息をついた。
長年苦労してきたあとのため息にように感じられた。
「まあ、心護ってばやっと琴理ちゃんと話すことができたのねえ」
「母上、誤解を招く言い方はやめてください」
「誤爆しまくっていたのは心護でしょうが。公一くんと詩がいつも愚痴ってたわよ?」
「………」
母に言い負かされる心護だった。
「心護様はとてもお優しいです。わたしなんかにも気を遣ってくださって……」
「それは違うわよ、琴理ちゃん」
琴歌に否定されて、琴理は失言だったか、と焦って顔をあげた。
だが、琴歌に怒っている様子はない。むしろ楽しそうだ。
「あ。これは黙ってた方がいいわね。琴理ちゃん、うちに住むのでしょう? これからだんだんわかっていけば大丈夫だと思うわ」
「そうだな。琴理さんはずっと許嫁としていてくれたんだ。そろそろうちに馴染むために暮らすのもいいだろう。花園から琴理さんがここで暮らすことの承諾は出ているから、琴理さんには宮旭日の家に慣れていってもらいたい。もちろん、花園で学んできたことを大いに生かしてほしい」
真剣な眼差しの新里に言われて、琴理は口元に力を入れた。
「はい」
答えてから、ふと気づいた。
(あ、既視感があると思ったら、お二人って似てるんだ……)