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「今回は突然お邪魔して驚かせてしまい、大変申し訳ございませんでした」
部屋に入った琴理は、ソファに座る当主夫妻に向けて深く頭を下げた。
心臓はバクバクいっている。朝食後、心護とともに母屋に赴いて当主夫妻との面談の席だった。
母屋の応接間は離れのそれより広く、ところどころに小さな器の生け花が飾られている。
当主夫妻はどんな顔をしているのだろう。公一さんから話はいっているはずだけど、どう思われただろう。この恰好でよかっただろうか。と、色々なことが琴理の頭をめぐっていた。
琴理の部屋のクローゼットには服も揃えられていた。
ワンピースもスカートも丈が長めのものを好む琴理の趣味をしっかり把握していて、ミニスカートやショートパンツなどはなかった。
琴理が恐縮して、ついてきてくれた涙子に謝ってしまうと、「琴理様に謝られては心護様が悲しみますので」と言われて、一度心護の部屋へ礼を言いに行った。
心護は照れくさそうにしていた。
その中から選んだのは、薄い緑色のすとんとしたワンピース。シンプルなつくりで飾り気は少ないが、その分琴理の所作の繊細さが際立つ。
――心護が琴理を宮旭日の家に連れてきた理由は、詳細には伝えられていない。
公一と詩を交えた場――琴理の影にクマがいるとわかって、クマが眠いと言って影に戻ったあと――で、琴理は自分がやったことを伝えてもらって構わないと口にした。
愚かなことをした自覚はあったからだ。
それに否(いな)を唱えたのは公一だった。
『琴理様の心情として当主夫妻に伝えてよいとしても、後々の問題になる可能性があります。今は若君の弱みとなることは伏せておきましょう』
『……ごめんなさい』
『謝ることが出来るなら、二度とそういったことをしないとお約束いただけますか? 態度の誤解が解けたなら、若君を頼ることも出来るでしょう?』
公一に言われて、琴理は心護を見た。心護は険しい表情だった。
その顔を見て、どんな罰でも受けよう。そう決めて、琴理はこの場に臨んでいた。
「心護が連れてきたと聞いているけど、琴理さんは問題ないのか?」
まあ座って、と促されて、琴理と心護は当主夫妻と対面するソファに座った。
そして父、宮旭日新里(みやあさひ しんり)からそう問われた。
――心護の、『芸能人みたいなイケメン』と言わしめる容姿は、両親のいいところをまるっと継いだようだ。
父の切れ長の目元や、母の小さな輪郭の顔など、これが遺伝か……と琴理を感心させた。
退鬼師宗家の当主として、新里の評価は高い。
弟に当主の座を奪われるかと危惧されていたが、先代当主の指名が無駄ではない働きをしている。
妻の琴歌(ことか)とともに、夫婦で退鬼師として活躍している。